2013年春、宇都宮市の「とちぎ若者サポートステーション」の学習支援を受けて、16歳で定時制高校に合格した星玲奈さん(仮名)。
対人関係に悩むこともあったが、入学後、落ち着いていく。
「学校という『居場所』ができたから」。サポステの中野謙作さん(54)はそう思えた。ペルー人の同級生と付き合い始めたと知らせてくれた。
胸をなで下ろしたその年の末。

「学校やめる」。星玲奈さんから、メールが届いた。
「妊娠した」と一言。
「彼は何て?」
中野さんは返信を打ちながら考えた。星玲奈さんが直面する新たな壁。
一方で「子どもができて、心が安定するなら、それもいい」。
◇ ◇ ◇
フィリピン人の生みの母の顔を知らない。育ての母は父が倒れ収入が絶えると、出て行った。生活が困窮する中、父を失った。
「家族がほしい」。星玲奈さんはずっと願ってきた。だから赤ちゃんができて、うれしい。
彼も涙を浮かべて、喜んでくれた。
2月からは、足利市内で彼の家族と暮らす。一緒に高校を中退した彼は派遣労働で働き始めた。
「現実は厳しい」と感じている。
出産費用は国民健康保険からの一時金で何とか払えそうだ。でも子育てにかかるお金は? ミルクやおむつ、ベビー服、ベビーベッド…。
いまの住まいは、決して広くない。子どもが生まれれば、彼の家族との同居は続けられない。新居を見つけなければ。
「いろいろ難しいけど、何とかやっていければ…」。心細さが募る。
◇ ◇ ◇
星玲奈さんから、またメールが来た。
「落ち着いたらさ、高認やっていい?」。高卒認定試験のことだ。
出産したら、働かなければならないだろう。雇用条件は中卒か高卒かで違ってくる。このままでは苦しい生活が連鎖しかねない。
中野さんは「もちろんOK」と返した。「自立するまでが支援ですから」
子育てはただでさえ、思い通りにならない。10代の母には、なおさらだ。
公的な支援制度は欠かせない。でも、それだけでは足りないと言う。
「地域の中でSOSの受け皿となる人が必要」
中野さんは、星玲奈さんの身近なところで、支援者たちのネットワークをつくろうと思っている。
(第3章終わり)