
わが子の笑顔が見たくて、1日1日の仕事を乗り切っている。
県央に住む30代の川本恵理さん(仮名)は、仕事を終えると急いで小学生の息子を迎えに行く。
10年ほど前に離婚し、息子と2人、県央の公営住宅で暮らし始めた。
数年前、別の仕事から、介護現場のパートに転職した。「息子を保育園に預けられない週末に休みたい」。求職の唯一の条件も合っていた。
働き始めてから半年ほどたったある日。
「きょうは、どうしても休ませてください」
息子が39度の熱を出した。急に休んだことはほとんどない。
女性上司から思わぬ返答が返ってきた。「解熱剤を飲ませて保育園に預ければいい。割り当てた仕事をこなして」
子どもを第一に考え働いている。それがかなわないなら続けられない。
1カ月後の退職を申し出ると、仕事を回してもらえなくなった。
フルで働き月給約13万円。児童扶養手当なども受け何とか生計を立てていた。なのに翌月は2万円にまで減った。
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非正規労働が急増し、不安定な収入のひとり親世帯が珍しくない。
「シングルマザーへの支援は、子どもの貧困対策の中心的なテーマだ」と中央大の宮本太郎教授は指摘する。
就労率は8割を超える一方、貧困率が5割に達する母子家庭。「1人1人がしっかり働き続けられる支援策を考えなければならない」
恵理さんは介護現場を離れ、自宅から車で30分ほどの電子機器関連工場で働きだした。仕事ぶりから、正社員として現場責任者を任されるようになった。
パート従業員は一定の人数なら休みを自由に調整でき、出勤時間も融通が利く仕組みがあった。離職を防ごうと取り入れられていた。
それでも子どもの突発的な体調変化には対応しきれない。急な休みの申し出は恵理さんがすべてメールで受ける。従業員は夜中でも連絡しておけば、安心して子どもの世話に専念できる。
ひとり親の母親や女性従業員が多い工場。生産に支障が出ないのは、社長を含めて従業員がカバーし合う意識が根付いているから。
誰もが支える側であり支えられる側でもある。
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ひとり親を支援する公的制度は十分ではない。
恵理さんは仕事を頑張れば頑張るほど、支援の手当が減り公営住宅の家賃などの負担は増える。
体調を崩したら、家計や子育てが立ち行かない。気を張る日々に変わりはない。
息子に親の働く背中を見せたい。やりがいと働きやすい職場があるから、踏ん張れている。
(第5章終わり)