
「どうすれば、つながれる?」。日光市のNPO法人「だいじょうぶ」の代表を務める畠山由美さん(53)は考えあぐねていた。
県北の佑樹君(15)=仮名、妹の奈津美ちゃん(10)=同=の生活支援のことだ。生活保護を受ける母子家庭で暮らしている。
一緒に買い物、料理し、掃除をする。荒れた暮らしを立て直すには、習慣を変えることがどうしても必要だ。
食べ物などは受け取った母親(40)だが、家の中に第三者が入る支援となると、途端に避けた。
「家に入れないのなら、来てもらうしかない」
数カ月後の2010年夏。市内の民家で「Your placeひだまり」を始めた。子どもや子育てに悩む親の居場所だ。
クリスマスパーティーや門松作り。佑樹君たちが喜びそうなイベントを工夫した。でも誘いに乗らない。
「食べ物ならどうかな」
11年春に開いた、たこ焼きパーティー。あいにくの雨が降りしきる中、佑樹君と奈津美ちゃんが肩を寄せ合い、初めて姿を見せた。
鉄板の上の熱々のたこ焼き。2人はうれしそうにつつき、次々と頬張る。
「こんどはいつ?」「また来られる?」。おなかを満たした奈津美ちゃんが矢継ぎ早に聞いてくる。
畠山さんは手応えを感じた。
◇ ◇ ◇
早朝、スタッフが奈津美ちゃんを家に迎えに行くことから、本格的な支援が始まった。
小学2年生になってもオムツを外せない。まず、ひだまりに連れて行き、おしりをきれいにしてお着替え。朝食後、学校へ送った。
夕方になると、スタッフが奈津美ちゃんを学校から、ひだまりに連れ帰る。佑樹君も自ら、ひだまりに「帰宅」するようになった。
2人はシャワーを浴び、宿題をやる。着ていた服を洗濯し乾燥してもらった。スタッフと夕食をおなかいっぱい食べ、家に帰った。
本来、家でするはずのこと。朝晩、土日も続いた濃密な支援は半年に及んだ。
◇ ◇ ◇
ある時、奈津美ちゃんがトイレから、スタッフに声を掛けた。
「見て、見て」
用を足せたことに誇らしげ。オムツが取れた。
中学校に遅刻しがちだった兄にも変化が現れた。
佑樹君は登校班になじめない奈津美ちゃんを小学校まで送っていた。負担が減り、自分優先の生活のリズムを持てる。店の食べ物を黙って食べる、夜に出歩く。問題行動は消えた。
悪循環から抜け出す兆し。
かたくなに支援を避けていた母親もまた、少しずつ変わり始めていた。