
12月、宇都宮市内のアパートの一室を訪ねた。
児童養護施設や里親のもとで育った人が集うサロン「だいじ家け」。同じ境遇の若者が集まり、食卓を囲んだり、話すともなく話す。
運営するNPO法人職員で代表の塩尻真由美しおじり まゆみさん(32)も当事者の1人。高校卒業までを市内の施設で暮らした。
真由美さんに尋ねた。
他人と違う、と思ったのはいつですか?
「みじめ、と初めて感じた時をはっきりと覚えてるんです」
幼少期は施設内で保育され、そこが世界のすべてだった。
5歳だったか、6歳だったか。近隣の幼稚園児らが、自分たちで収穫した野菜の寄贈に訪れた時のこと。
普段、接することのない「外の世界」の子どもたち。おそろいの制服に身を包み、長い髪にきれいな髪飾り。
「なんだか、とってもキラキラしてる」
◇ ◇ ◇
自分たちはと言えば、みんな、着古した「およげ!たいやきくん」のプリントシャツ、髪はショートカット。
差し出された野菜を、「いらない」と言って拒んだ。
幼稚園児と交代で歌を歌うのも、嫌で嫌で仕方がない。ふくれっ面になった。
同じ年ごろの子から、施しを受けているようで嫌だった。
◇ ◇ ◇
小学校に入って、はっきりと「違い」を意識した。
小さな背中に真新しい真っ赤なランドセル。朝、施設から学校までの道を集団登校する。
雨の日。近くのお友だちは色とりどりの傘を差していた。施設の子どもは、支給された黄色い傘。
「私もかわいい傘がよかったな」
自分が持っていた文房具も鉛筆は緑一色のシンプルなデザイン。消しゴム、ハサミ、定規…。すべて事務用のものだ。
同じクラスの女の子たちは違う。イラストがあしらわれた鉛筆。いい匂いの消しゴム。友だち同士でお気に入りの文房具を交換し合うことがはやった。
「どうしてかな」。真由美さんは幼い自分に思いをはせた。「うらやましくて交換してほしかったけど…」
どうしても、友だちの輪に入ることができなかった。
いじめられていたわけでも、避けられていたわけでもない。
自分の思いを押し込めることに慣らされていった。