
スティグマ-。
このギリシャ語は、貧困問題の研究者、支援者の間で使われている。社会からのレッテル張り、偏見を指す。
スティグマが生活困窮者の支援に影を落とす。
県南の公営住宅のテレビも、エアコンも、電話もない部屋。
小学2年の女の子は放課後、仕事から帰る母親をひとりで待っている。
40代の母親上村和恵さん(仮名)には、娘を学童保育に預けるお金のゆとりはない。
もともとは専業主婦。夫の暴力、ドメスティックバイオレンス(DV)に苦しめられ、離婚した。正社員の元夫を通して社会保障の「安全網」の中にいたが、網の外へ。養育費なども限られ、ギリギリの生活を強いられる。
数年前、和恵さんは支援者から生活保護受給を勧められ、地元の相談窓口を訪ねた。
担当者から「あなたは働けるでしょう」と突き放され、「受給するにしても、親や親戚に扶養できるかを照会しなければならない」と言われた。 あきらめた。
困窮する暮らしぶりを親戚にまで知られたくない。「まして、迷惑はかけられない」
職場にも、母子家庭であることは隠している。離婚の理由を探られるのは耐えられない。
「そんな男と結婚したから…」。責められそうで怖かった。
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「母子家庭や生活保護に対する社会の無理解やスティグマが強く、制度はあっても利用できない実態がある」
県内で長年、DV被害者を支援するNPO法人サバイバルネットライフの仲村久代代表は身に染みている。
「ごく一部の不正受給が騒がれ、困窮者の困難がかき消されてしまう」と中央大の宮本太郎教授。担当窓口で受け付けを拒み受給者を絞り込む「水際作戦」の根深さも指摘する。
厚生労働省は、低収入で生保を利用できる可能性がある世帯のうち約7割が受給していない、との推計を示している。
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蓄えも車もない和恵さん。自転車で通える近所のパートの仕事で働いている。
時給制の給料は月7万円から10万円しかない。学校行事、長女の通院などのたびに休まなければならず、その分、給料は減る。雇用保険や社会保険に入っていない。失業すれば、児童扶養手当などのわずかな収入しかなくなる。
家計と子育て。二つを担う支柱は、スティグマが絡み、あまりにも、もろい。