
入学金に授業料、家賃に光熱費-。
1年前の冬。高校3年生だった小河原沙織さん(19)は、受験を目前に控えて考えをめぐらせた。
薬剤師になりたくて、理系に進んだ。
その後、父が亡くなり母がパートで家計を支えている。
6年制の薬学部は学費がかさむ。「もう無理」と選択肢から外した。
代わりに、公認会計士などの資格を取得することをを目標にして、小山市の白鴎大経営学部を目指した。
高校の先生が、奨学金制度を紹介してくれた。
返済不要の「給付型」はわずかな上、受給のハードルは高い。貸与型、中でも利子付きが目立ち、選択肢は限られている。
病気などで親を亡くした学生が、無利子で借りられる「あしなが育英会」の奨学金を選んだ。
◇ ◇ ◇
高校では、親しい友達とも父の死をめぐる話をしたことがなかった。
親を亡くした友達は、見当たらない。「気を使わせてしまうのも嫌だったから…」
2013年、白鴎大に入学後、初めての夏休み。群馬県で開かれた育英会の高校生や大学生の「つどい」に参加した。全国の奨学生との交流が始まった。
「父親が借金を抱えて自殺した」
「きょうだいの教育費確保のために進学できない」
「大学の授業料を払うのにバイトばかりしている」
お金がないために、得られるはずの機会が損なわれる「相対的貧困」は見えにくい。沙織さんは、そんな環境に置かれた仲間たちの悩みに触れた。
「私だけじゃない」。押し込めていた気持ちが解き放たれるようだった。
◇ ◇ ◇
年末、福島県西郷村の実家に帰省した沙織さん。のし板の上で、つきたての餅を両手でくるくると丸めていく。
正月の鏡餅作りは、沙織さんの年の瀬の役目だ。
母順子さん(57)が目を細め、語り掛けた。
「沙織が積極的になったって、お姉ちゃんが驚いていたよ」
こたつの上に、あしなが育英会の「遺児と母親の全国大会」の資料がある。
「子どもの貧困対策推進法」成立を強く後押しした大学生らが集まった大会。沙織さんは実行委員に立候補し、デモ行進で声を張り上げた。
「子どもの貧困を、まだ知らない人が多いと思うんです。同情じゃなくて、まず知ってほしい」