
4月、赤ちゃんと両親が暮らす日光市内の部屋。
「食べ物が底をつくころだろうな」
寄付で寄せられた食料を手に、大久保みどりさん(64)が訪ねた。子どもの養育などを支援する市内のNPO法人「だいじょうぶ」のスタッフだ。
事前に健診を受けない「飛び込み出産」だった母親は産着などは準備しておらず、そろえて届けた。それからの付き合い。
父親は病気で働けず、工場で働く母親の収入だけが頼りだった。でも、第2子の出産を控え仕事を辞めていた。
大久保さんは生活保護の申請に同行する約束をして、部屋を後にした。
食べ物の提供や同行といった直接支援。大久保さんは、市の家庭児童相談室相談員も兼ねている。
NPOと市の立場が重なり合う体制が、スムーズで手厚い支援を生み出す。
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だいじょうぶは、法改正で市町村が児童虐待の相談窓口となった2005年度から、市の24時間電話相談業務などを委託された。
「相談だけでなく、支援の必要な子どもを少しでも早く見つけたい」。理事長の畠山由美さん(53)が保育園などを訪問すると、こう言われた。
「あなたたちは何ですか」。趣旨を話しても、「市には報告してますから」
委託に合わせ、できたばかりのNPO。現実を突き付けられる。
市からも情報を得られない。個人情報の「壁」が立ちはだかっていた。
育児支援の訪問事業も委託され、市の相談員と同じ建物で仕事をするようになっても、変わらない。
だいじょうぶは、かかわりを持てた家庭を徹底的に支援する。子育てが苦手な母親に寄り添って、掃除や買い物、料理も手伝った。
市の方は、関係機関からの情報が集まって、制度につなぐことはできても、直接支援は難しい。
それぞれの「持ち味」が際立ってきた。
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もっと効果的な支援ができないか。市にも問題意識があった。
相談体制見直しが始まり、11年度、転機が訪れる。
だいじょうぶの相談業務が「市の相談員と同等」と明確化され、意識の垣根が取り払われた。同じ情報が得られるようになった。
市職員は守秘義務に気を使う。「慎重になりすぎて情報共有が進まなかった」と市の相談室の担当部長だった鈴木法子さん(62)。
「介護サービスを行政がすべてやるところってある? 子どもの分野が違う理由はないでしょう」
互いが補い合う形。「壁があることで困るのは子どもなんだから」