
福祉関係の部だけではない。産業経済部、会計管理部まで、すべての部長が名を連ねる。
東京・荒川区の「子どもの貧困・社会排除問題対策本部」。本部長は西川太一郎区長が務める。
「1人でも不幸な子どもを減らす」
この目標の実現に向けた「あらかわシステム」の核だ。システムと言っても、本部以外に何か組織があるわけではない。子どもの貧困に対応する考え方の枠組みだ。
担当業務がきっちりと決められている公務員。「本部による意識づけの意義は大きい」と総務企画課の片岡孝課長はつくづく思う。
全庁横断的な態勢。「縦割り」を越えていく。
◇ ◇ ◇
13年春。「近くの家でライフラインが止められているようです」。住民からの1本の電話が、生活保護の担当課に入る。
聞けば、「小さな子どもがいる家」と言う。
かつての態勢であれば、職員は「本人に窓口に来るよう話してください」と伝えただろう。
生活保護は申請が前提。本人が来なければ、つながれないままだ。
でも、応対した職員は次の行動を起こした。
区の子ども家庭支援センターに連絡する。相談員がその家庭に何度も足を運び、見えてきた。
母親は離婚後、精神的に不安定になり何もできない。子どもたちは満足に食事もしていなかった。
一家は支援を受け、生活を立て直していった。
◇ ◇ ◇
支援施策を洗い出したから、足りない施策がはっきり見える。
全小中学校で学習支援を始めた。スクールソーシャルワーカーや、離婚や養育費の相談に乗る担当者を配置した。
ハローワークに同行し、履歴書の書き方も助ける就労支援課も設けた。
住民も動きだした。
養育の難しい家庭の子を連れ出し食事や学習支援を提供する「居場所」。住民が5月、ボランティアで始めた。区は行政としてのかかわり方を模索している。
区への新たな児童虐待相談は13年度、約200件。1年間で倍増した。
「虐待自体が増えたのではない。住民の意識が高くなっている」。子育て支援課の古瀬清美課長は手応えを感じる半面、悩みも膨らむ。
やればやるほど、ケースは掘り起こされ、支援を拒まれるような対応の難しいケースも増える。「既に現場は手いっぱい。どうしたら…」
歩みを進めると、また新しい課題が見えてくる。住民とともに試行錯誤して次の対応策を探す。
古瀬課長は言う。「その取り組み方そのものが、あらかわシステム」