奨学金は子どもの学びへの希望をかなえ、進学を実現させる切り札の一つだ。貧困の世代間連鎖を断ち切ることにもつながるが、返済義務のある貸与型やその利用者は急増し、卒業後の「借金」として足かせになりかねない。現状や課題、制度の在り方を探る。(子どもの希望取材班)

最大で627万円。
「額を見ると、うわって思う」。県南の私立大3年奥山未菜さん(21)が、奨学金を返済する総額だ。返済期間は約20年にも及ぶ。
「ちゃんと就職できれば、返せると思うけど…」。就職先は決まっていないが、返済だけは決まっている。
奨学金月9万円のうち、4万円は「あしなが育英会」の無利子奨学金。5万円は日本学生支援機構からで、利子がある。
高校時代を含め、大学卒業までに借りる元金は計560万円。返済額は利子で膨らむ。
幼いころ父を亡くした。母はパート収入と遺族年金で家計をやりくりしている。生活は厳しいが、大学進学に賛成してくれた。
奨学金は年約100万円の授業料に使う。大田原市の実家より大学に近い祖父母宅に下宿。アルバイトをして通学費や教科書代を賄っている。
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「借りないと行けない」。そんな大学生が増えている。

同機構などによると、進学率上昇と景気低迷による家計収入減が相まって、奨学金を利用する大学生の割合は1998年度の24%から2010年度の51%に倍増。2人に1人を占めるまでになった。
年間授業料は1985年からの20年で国立大が2倍の53万円、私立大が平均で1・8倍の84万円超に増えた。
大学進学率は10年度、過去最高の54%を記録している。
奨学金問題対策全国会議事務局長の岩重佳治弁護士(東京)は「学費が低く大学に進学しない人が多かった時代とは違う」と指摘。
非正規雇用が増える中、若者は少しでも安定した職を目指し大学に進学するだけに「奨学金という『借金』に頼らざるを得ない状況に追い込まれている」と分析している。