
「必要な時に間に合わないと意味がない。ありがたいんだけど…」
介護施設に正職員として勤務する栃木市の小林洋子さん(52)=仮名。娘(16)を産んでまもなく離婚し、今は母子2人で暮らす。月収は夜勤をしても20万円に満たず、家賃を払うと、生活にゆとりは持てない。
2013年3月。娘の高校進学に当たって、県の「母子寡婦福祉資金」の利用を申し込んだ。
入学時、要件を満たせば一時金約40万円を無利子で借りられる。
娘は県立高を不合格となり、私立高に入学金などを納めなくてはならなかった。期限は翌日だ。一度に30万円ほどが必要。後日とはいえ、制服代も含めると、50万円近くになる。
福祉資金が入るのは申し込みの翌月末が基本。
夏のうちから市役所の窓口に相談し、借りられる見通しは立っている。でも正式な手続きは進学先が決まるまで進まなかった。
私立単願であれば早めに申請でき間に合うが、県立の合否が分かってからでは、受け取れるのは4月末になってしまう。
蓄えはない。でも、払えないと高校に行かせられない。
「消費者金融で借金するしかないかも」
◇ ◇ ◇
窮地に陥った洋子さんは、宇都宮市の宮路順子さん(58)に相談した。
県内で長年、母子家庭支援を続けるNPO法人コドモネットらくだーずの代表を務める。
「制度が対応しきれないのなら、共感してくれる人たちの善意に頼るしかない」。数人の知人に呼び掛けて、お金をかき集め手渡した。
「だって、洋子さんは返せる見通しが立っている人でしょう」。福祉資金が「担保」。4月になれば、お金は入る。
ようやく洋子さんの娘は県南の私立高に入学でき、もう2年生になった。授業料などは月3万円の無利子の奨学金で賄っている。
◇ ◇ ◇
「同じ思いをしている母親は大勢いるんです」と宮路さん。
「前もってためればいい」と言われる。でも、目先のお金にきゅうきゅうとしている人は多く、保証人が見つけられず利用できない人もいる。
一方で、進学先が決まらないと、貸し出さない制度の理屈も分かる。「いくらかかるのか、はっきりしないと貸せないだろうし…」
高校側が納金を待ってくれる、緊急貸し出しの上限額を引き上げる…。
どんな方法でもいい。子を持つ母親に支援が届くこと。
大切なのは、そんな「当たり前のはずのこと」だと宮路さんは思っている。