
150ページを超える冊子は、「あらかわシステム」と銘打たれている。
東京・荒川区のシンクタンク、自治総合研究所が「子どもの貧困や社会からの疎外」をテーマとして、2011年8月にまとめた最終報告書だ。
国が初めて「子どもの貧困率」を公表したのは09年10月のこと。
既に庁内にこの問題の検討委員会を立ち上げていた区。国の公表と同時期に独自のシンクタンクを設立し、研究を本格化させた。
いまは報告書に基づき取り組みを進めている。
始まりは西川太一郎区長が初当選した04年11月にさかのぼる。着任直後、「幸福度」の向上を打ち出した。
◇ ◇ ◇
GAH。グロス・アラカワ・ハッピネスを区民総幸福度の指標と位置付けた。
「幸福とは。GAHをどう示し、どう上げるのか」。庁内の検討では、壮大な命題へのアプローチを「身近な不幸を減らす」ことから考えた。
未来の地域の担い手である子ども。守られなければ生きていけない存在に、まず着目した。
非正規雇用やワーキングプアが増え、「格差」が顕在化し始めていた。
子どもがどんな影響を受けているのか。家庭の所得を担当課でつかめていても、どう生活しているかは見えない。
職員が徹底して保育所や幼稚園、学校から聞き取ると、衣食住さえままならない子どもの姿が浮かび上がる。
課題を抱えた61家庭のうち42ケースに経済的困窮があった。その大半の37には、金銭だけでは解決できない家庭の事情が絡み合っていた。
区の子ども家庭支援センターは、困窮より虐待の視点を強く持って対応していた。
生活保護の担当課は困窮家庭への問題意識はあっても、子どもへの影響に比重は置いていない。
学校は家の中の事情までは分からなかった。
研究所の二神恭一所長はこう感じていた。
「『子どもの貧困』という視点で見渡さないと、何も見えてこない」
◇ ◇ ◇
対策に関係しそうな施策すべてを洗い出した。
生活保護、医療費助成、養育支援訪問…。100近い施策が各課にまたがっていた。評価し直すと、支援に必要なメニューの多くが既にあることが分かった。
なのに、縦割り行政であるが故に生かし切れていない。「支援にかかわる人と組織が重要になる」
10年春。各部、主要課の長による「子どもの貧困・社会排除問題対策本部」を立ち上げた。
全庁を挙げた取り組みが始まった。