
母親に手を引かれて、よちよち歩く幼い子。その姿を目で追いかける。
「かわいい」
アルバイトに行く途中で立ち寄ったスーパーの駐車場。県北に住む定時制高校3年、由衣さん(18)は頬を緩めた。
「幼稚園の先生になりたい」
遠ざかりそうになるその夢を、必死につなぎとめている。
2013年12月。
母と弟が寝静まった自宅に帰る。翌朝の食事の支度をして、布団にもぐり込むと、午前4時近くになる。
起床はわずか3時間後。午前中から夕方まで飲食店でバイトし、そのまま学校へ。
夜9時すぎに授業が終わり、午前2時まで、またバイト。日中とは違う24時間営業の飲食店で働き、土日も働く。
母親は体調を崩して職がない。生活保護は受けておらず、ひとり親世帯向けの手当てや由衣さんの奨学金を頼りにしている。
高校入学後、15歳からバイトをするようになった由衣さん。月3万~5万円を家族の生活費に充て、残りはためる。自分の将来のために。
幼稚園の先生になるには、大学か短大に進学する必要がある。入学金、授業料…。たくさんのお金がかかるだろう。
母には頼れない。自分で用意しなければならない。
水仕事が多い飲食店の仕事。白く細い指は、乾燥してひび割れ、無数の赤いあかぎれの跡が残る。バイトするほど、手は荒れ、ハンドクリームを手放せない。
この1年くらい治らないのだという。「病院に行ければいいんだけど、時間がなくて…」
◇ ◇ ◇
13年、18歳になってすぐの時期に自動車教習所に通い、免許を取った。
電車やバスより移動時間を短縮できる。車を運転できれば、もっと長く働けて、もっと稼げるはず。
親類から中古車を借りられ、バイトへの足は確かに便利になった。
その代わり。
家計を支えながら、自分のために少しずつためた蓄えは、教習所費用25万円を支払って消えてしまった。
残高はごくわずか。通帳を見て、焦りが募っていく。
「このままじゃ将来、何もできなくなっちゃう」
深夜のバイトを始めたのは、そう考えたからだ。
夢をかなえるには、勉強もバイトも手を抜けない。
そんな現実が、由衣さんを追い込んでいった。
(文中仮名)