「子どもの貧困」と表裏一体をなす親の経済的困窮。不安定な非正規労働者が増える一方、社会保障制度は改革が追い付かず、機能を十分に果たせていない。中央大法学部の宮本太郎教授(政治学)は9日までの本紙インタビューで、ひとり親に多い非正規のワーキングプア(働く貧困層)がセーフティーネットからこぼれ落ちる深刻な状況を指摘、新たな「生活保障」の重要性を訴えた。

-経済的に困窮する子どもをめぐる現状は。
「日本の生活保護制度は十分とは言えないまでも、一定の給付水準を確保している。子どもの貧困を考えても、受給していない世帯の深刻さが際立っている。親が昼夜働いても立ち行かない」
「かつては、公共事業などで体力のない企業も守る護送船団方式の行政が、企業の終身雇用を支え、その慣行が家庭の稼ぎ手である男性を守ってきた。賃金は、妻子を養う家族賃金として支払われ、妻のパートなどの非正規労働の所得は、家計を補完すれば事足りていた」
-状況は大きく変わっています。
「今は急増した非正規労働者が、世帯の中心的な稼ぎ手となることが珍しくない。終身雇用に頼れなくなり、社会保障制度が稼ぎ手一人一人を直接的に支えなければならない。非正規のワーキングプアの多いひとり親家庭の抱える困難は、制度が社会の変化に付いていけていないことの象徴。その支援策は、子どもの貧困対策の中心的テーマだ」
「ひとり親には、現行制度では手当などが手薄。最低賃金引き上げや、労働意欲を保ちやすい『給付付き税額控除』などの施策を講じて、働いて得られる所得を増大させる必要がある」
-社会保障制度について発想の転換が必要ですね。
「ワーキングプアの世帯がしっかり働き続けられるように支えることが大事。ワーキングプアの人がしっかり支えられる形を示せれば、さらに困難を抱えている生活保護受給世帯も、不安を持たずに働き始められる。そういう循環にならなくてはいけない。これが新しい社会保障の形、生活保障のイメージだ」