ぼろぼろの靴をいつも履いている。ノートや体育館シューズは、学校から言われても用意できない。
2013年末。
小学校を訪れた高根沢町教委のスクールソーシャルワーカー、渡辺有香さん(29)は先生から男子児童の話を聞かされた。
町が配置を始めて7年目。不登校や親の就労…。さまざまな課題と向き合う。状況が改善するケースが増えるにつれ、先生からの情報も多くなってきた。

児童は家で食事をできているようだ。親には仕事があり、家庭からもこれといった相談はない。でも、先生は、その子の様子が気になっていた。
「もしかしたらネグレクト(育児放棄)かも」。渡辺さんは、町の要保護児童対策地域協議会で状況を伝えた。要対協は児童相談所や警察関係者、保健師などが虐待や育児の難しい家庭への対応を検討する場だ。背景に経済的困窮があるケースも少なくない。
児童には、激しい虐待があるわけではない。非行もなく、緊急性は高くない。
学校を通じて子どもと家庭を見守ることになった。
◇ ◇ ◇
ところが、ことし春、学校から新たな情報が、渡辺さんにもたらされた。
最近、児童の顔が黒くて汚れている。夜、子どもだけの時間もあるらしい。
担任と親がやりとりし、ノートやシューズはそろったが、家庭には何か事情があるに違いない。
「家の中のことを知りたい」。そうすれば児童の生活が分かるはず。せめて、親とじっくり話したい。
そんな思いを募らせる渡辺さん。なのに、次のステップを踏めずにいた。
家庭からのSOSはないままだ。
突然、家を訪ねたら、学校への不信を招きかねない。わだかまりが生まれ、家庭が孤立することだけは避けなければ…。
町こどもみらい課の加藤敦史課長は言う。「あきらめてはいけない」
かかわっていけば、いつか支援につながり改善する可能性がある。
渡辺さんも、その糸口を探し続ける。
◇ ◇ ◇
町だけではできないこともある、と渡辺さんは考えていた。
養育困難な家庭の子どもには、食事を用意したりお風呂に入れたり、衣食住の直接支援が必要にもなる。
「何とかしたい」。でも直接支援は、できる範囲が限られている。
家庭が変わり子どもが変わるには時間がいるが、子どもの成長は待ってくれない。気付いた大人が少しでもかかわってくれれば違う。
「地域の人や民間団体などと一緒になって支援の形ができれば」と加藤課長。
町の模索は続いていく。