
多くの自治体が直面する現実がある。
第4章で取り上げた母子家庭の小中学生のきょうだい。小山市の古い農家で暮らす。
子どもたちは食事を満足にできていない。窓ガラスは割れたまま。料金を払えず、電気を止められたこともある。
窮状に気付いた民生委員だった女性(72)は、何度も市に相談した。
でも、児童虐待には当たらない。公務員は担当業務が決められ、この家庭だけ特別に支援すれば不公平になる。
民生委員、地区社会福祉協議会も一時的には支援したが、十分な手を差し伸べられなかった。
この現実を乗り越えるには、政治や自治体のリーダーシップが不可欠だ。
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第6章で取材した英国。「われわれの世代で子どもの貧困をなくす」。1999年、当時のトニー・ブレア首相が宣言してから、英国の対策は一気に加速した。
子どもの貧困をめぐる民間団体の研究や運動にも火を付け、官民一体の取り組みが盛り上がる。
10年あまりで子どもの貧困率は27%から10ポイント下がり、110万人の子が貧困から抜け出した。
東京・荒川区では西川太一郎区長が先導した。
会計など一見、子どもの貧困と関係のない部も含めて、すべての部長による「子どもの貧困・社会排除問題対策本部」を設置。貧困への意識を共有することで、行政の縦割りを越えていく。
地域などから区への児童虐待相談は急増した。背後に貧困があることが多い。担当者は「虐待自体が増えたのではなく、住民の意識が高まった」。
「官」のリーダーシップは「民」を巻き込み、一体となって支援体制が充実されていく。
市とNPO法人が補い合い支援体制をつくる日光市。
関係機関からの情報が集まる市は制度につなぎ、NPO法人は衣食住まで機動的に支援する。相乗効果は大きい。
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「お金や食べ物を渡したい」「学習支援のボランティアに協力できないか」
連載中、読者から支援の申し出が、新聞社に相次いだ。
「衣食住を支援する『居場所』を作りたいが、対象の子がどこにいるか分からない」と悩む宇都宮市の女性もいた。
行き場を見つけあぐねている「善意」。地域にあるこの力を生かさなければならない。
子どもの貧困対策推進法に基づき、政府大綱が7月にまとまる。都道府県も対策のための計画を作るよう求められている。その中でどんな姿勢を示すのか。
十分に手を差し伸べられない現実を放置できない。
子どもが希望を持って育つ権利を守るために。
(最終章終わり)