外の通路にまでごみがあふれ出ていた。
生活保護を受け、佑樹君(15)=仮名=たちきょうだいと母親(40)が暮らす県北のアパート。
2011年夏。日光市のNPO法人「だいじょうぶ」代表の畠山由美さん(53)が部屋の外を片付けていると、玄関の扉が開いた。
室内からごみ袋が差し出される。
「これもお願いします」
いくら支援を申し出ても、頑として中を見せなかった母親だ。
畠山さんが「一緒にやりますよ」と声を掛ける。やっと部屋に入れてくれた。
足を踏み入れた室内は、汚れた服などで床がわずかに見えるだけ。
まるでごみ屋敷。
「きれいになるまで3、4回はかかるかな」
次第に姿を表す床を、佑樹君やスタッフみんなで磨く。使えなかったトイレも水が流れる。総出で軽トラック2台分ものごみを運び出した。
「きれいっていいなあ」
佑樹君にとって感じたことのない気持ち。
安心できる家。育つための最低限の基盤が整った。

◇ ◇ ◇
夏休みも食事や入浴などの濃密な支援は続いた。
佑樹君と妹の奈津美ちゃん(10)=仮名=は、畠山さんらが運営する母子の居場所「Your placeひだまり」に欠かさず通う。
母親も気を許しつつあった。家のガスが止められたのか、時折シャワーを浴びに来るようにもなった。
支援は勉強にも及び、スタッフと一緒に夏休みの宿題をやり遂げた。初めてのことだ。「学校でほめられたよ」。2人はうれしそうに報告した。
ずっと、自分のことを「ばか」だと思っていた佑樹君。「だって、成績がビリなんだもん」
でも勉強を始めたら、得意の数学はテストで学年で真ん中の順位にもなった。
自尊心も芽生えてきた。
◇ ◇ ◇
本格的な支援から3年。4月に県立高普通科に入る佑樹君はもう、ひだまりを「卒業」できる。小学5年生になる奈津美ちゃんが訪れる機会も減りそうだ。
「学校に行かなくても仕事をしなくても、何とかなる」と考えていた佑樹君。
いまは希望がある。
「高校を卒業したら料理人になる」
2年前までオムツを外せず登校班に入れなかった奈津美ちゃん。帰宅するとすぐに友だちの家に遊びに行く、ごく普通の女の子。
「人は必ず改善する」
畠山さんの実感だ。
「これからはボランティアとして、かかわってくれないかな」
そう佑樹君に持ち掛けようかと思っている。