
赤ちゃんがいると分かったのは、17歳の誕生日をすぎて間もない2013年末。
「この子には、私と同じ思いをさせたくない」
困窮し、孤立を深めた十代前半。「まるで家なき子、親なき子」
出産予定は8月だ。星玲奈さんはおなかにそっと手を当てた。
◇ ◇ ◇
父が倒れたのは星玲奈さんが小学3年生の時。
父とママ、「おばあちゃん」と呼ぶ父の伯母の4人で宇都宮市内の一戸建てに暮らしていた。
怒ると怖いが、家では料理や勉強を教えてくれた父。何でもできて頼もしかった。
父には後遺症が残り、家で寝たきりになる。
ママは父の面倒をみながらも、お酒を飲んでばかり。ご飯を作ってくれなかった。
父の収入が絶たれ、生活は困窮していく。
小5の冬。学校から帰ると、テーブルの上に書き置きがあった。「元気でね」。星玲奈さんの貯金箱は壊され、中身はなくなっている。
ママが出て行った。
「どうして行っちゃったの?」
おばあちゃんは、思いも寄らないことを口にした。「本当のママはフィリピン人なんだよ」
じゃお母さんは誰…。
世話をする人がいなくなり、父は入院するしかない。医療費はかさんでいく。
家を引き払い、生活保護を受け始める。80歳を過ぎたおばあちゃんと貸家に引っ越した。
保護費と年金で、やりくりできず、ガスや電気はよく止められる。ろうそくをともし、冷たい食べ物を口に運んだ。
おばあちゃんは自分はがまんしても、食べ物をくれる。そうかと思うと「何でおまえの面倒を見なきゃいけないの」とも言った。
父が伏せったころから、学校でいじめられるようになった。
「貧乏」「外人」。そんな言葉を浴びせられ、靴を投げ付けられる。いじめる子はかわいい筆箱や靴下を持っているのに、自分にはない。
「私は身分が低い」
もう自らを大切に思えなかった。
◇ ◇ ◇
中2の夏。不登校になって半年がたっていた。
それをおばあちゃんから、とがめられる。「おまえはあいの子だから、だめなんだ」
気がつくと、馬乗りになっていた。おばあちゃんのあばら骨が折れた。
児童相談所の判断で、心理面を支援する児童福祉施設に入った。
父が亡くなった。
大切なものが、一つ、また一つ、なくなっていった。
(文中仮名)