
昼間働き、定時制高校の卒業を目指す宇都宮市の未来さん(20)。
中学校の楽しい記憶は一つもない。生活が一変したのは、そのころ。
両親が離婚。市内のアパートで母親(44)、年の近い妹、弟と暮らした。父がいなくなり、家の収入は激減した。
母は生活保護を受けながら、スーパーで働いた。車を手放し、外食もほとんどしない。忙しい母を気遣って、毎晩、夕食を作るのが未来さんの役目になった。
小学生の時、学年が上がるたび千円ずつ増えた月のお小遣いは、なくなった。
それを知ってか知らずか、同級生はささやいた。
「未来はお金ないから遊びに誘わない方がいいよ」 「いつも同じジャージー。洗ってないんじゃない」
小学生のころから親しかった友だちからも、距離を置かれる。「未来と仲よくすると、自分まで仲間外れになる」。友だちのそんな胸の内が透けて見えた。
頼れる先生もいない。
いつしか教室にも、友だちの輪にも入れなくなる。 学校に居場所がない。
次第に体調を崩す日が増えた。突然発熱する。差し込む胃の痛みに襲われる…。学校から足が遠のいた。
母とささいなことで、すぐ口論するようになった。「家から出てけ」。何度もそう言われ、傷ついた。
母もまた、ひとり泣いた。言い過ぎた自分を責めたのだろう。子ども3人の生活費や学費を1人で工面するようになってから、涙を流す姿を初めて目にした。
「よほど、つらいんだな」
そう思うと、学校に行けない理由を切り出せない。母はうすうす感じていたはず。それでも「学校に行きなさい」と強く促した。またけんかになった。
「未来の気持ちなんて知らないくせに…」。そう言うのが精いっぱい。
「もう誰にも必要とされていない」
家でも孤立感は深まった。
◇ ◇ ◇
高校は行かず、働くつもりだった。入学するだけでもお金がいる。またつらい場所になるかもしれない。
転機は中学2年の冬。
未来さんと同じように学校になじめなかった同級生の女の子と出会った。その子の行くフリースクールに通う。悩みを分かち合える仲間、自分を理解してくれる先生に囲まれた。
1年後、そこでの友だちが高校へ進学すると聞き、気持ちが揺れる。
「何かあったらここへ来ていいんだから」。先生のひと言で進学を決意した。
楽しいこともあるかもしれない。期待した。「今度こそ」と。
(文中仮名)