家に入る時も、靴を脱がない。
玄関の扉を開けると、脱ぎ捨てられた衣類が台所に山積みされている。
兄、妹、母親と暮らす県北のアパートの一室。幼いころから生活保護を受けて育った佑樹君(15)=仮名=は、土足のまま「山」を踏み越え、居間へ。
母親は、「汚いと感じるものに触れられない」と言った。掃除ができない。

保護費を受けてもすぐになくなり、光熱費の支払いに困った。
日々の食べ物にも事欠き、学校の給食が佑樹君たちの生きる糧だった。
休みの日はつらい。何も食べていない佑樹君が「おなかがすいた」と母親に訴えても、「布団に入りなさい」と言われるだけ。
2011年春まで続いた日常だ。
◇ ◇ ◇
佑樹君たちを支援する畠山由美さん(53)の目には、こう映った。
「経済的困窮が、お母さんを精神的に追い込み、家事や子育てへの意欲を失っているのかもしれない」
貧困状態に置かれたり、養育能力に乏しい家庭、子どもを支援する日光市のNPO法人「だいじょうぶ」の代表を務める。
「お母さんを責めても、どうにもならない。一緒に行動し、自ら動けるように後押ししないと」
10年春。スタッフとともに、わずかな接点をたぐり支援に乗り出した。
アパートを訪ねた。いない。また訪ねた。気配はあるが、居留守を使われたらしい。母親の携帯電話にも連絡した。だが出てもらえない。避けられ、どうしても母親に会うことができないでいた。
見えない壁があるようだった。
「ずっと責められているような気持ちで生きてきたんじゃないか」。畠山さんは、母親の境遇に思いをはせた。
◇ ◇ ◇
子どもたちが学校を休みがちになると、登校を求められる。提出物の忘れ物が重なれば、注意される。
片付けられないごみを部屋の外に置けば、大家さんからとがめられる。
光熱費の支払いが滞れば、催促される。
母親自身も、生活保護家庭で育った。コンプレックスは強く、近隣からのレッテル張りにもさらされたに違いない。
「SOSを出すことよりも、内にこもるようになったのだろう」
母親に会えないまま時間がたつ。きょうだいの困窮ぶりが耳に入ってくる。放っておけない。
次の一手に考えをめぐらせていた。