
居場所を見つけられなくて、もがいていた。
仲間の輪にいたかと思うと、スタッフの部屋に駆け込み、泣きわめく。
突然、大音量で音楽をかける。
2012年夏。JR宇都宮駅に近い雑居ビルにある「とちぎ若者サポートステーション」。さまざまな悩みを抱える人が集まる。
宇都宮市内の困窮家庭で暮らす15歳の星玲奈さん(仮名)は、約2年間過ごした児童福祉施設を出たばかり。「おばあちゃん」と呼び同居していた父の伯母にけがをさせ、心理的な支援を受けていた。
母はいない。父は亡くなった。唯一の身内と言えるおばあちゃんの家にまた身を寄せている。
サポステの中野謙作さん(54)は、星玲奈さんの不安定な言動を見つめていた。
「本当に必要な人とつながっていない」
◇ ◇ ◇
施設では、高校進学がかなわなかった星玲奈さん。1年遅れの受験を目指して、サポステで学習支援を受ける。
いじめられ中学校にはほとんど通っていない。
数学は大の苦手。「分かんない」。問題を突き返しても、中野さんは繰り返し、テープのように教えてくれた。
勉強だけではない。
「何かあったら、言っておいで」。どんな話にも耳を傾けてくれた。
おばあちゃんの年金と生活保護に頼る暮らし。おばあちゃんを「大事にしたい」とは思うが、生活の厳しさから、けんかになってしまう。
「家出したい」と打ち明けると、中野さんからじっと目を見られ諭された。「だめだよ、だめ。おばあちゃんを捨てるの?」
人とうまく付き合えない悩みを話した時は、「相手の立場になって考えたら、どうだろう」と尋ね返された。少しずつ、自分の頭で考えるようになっていく。
サポステには同じようにつらい思いをする人たちがいた。共感し、心を許せる友だち、兄のような人にも出会えた。「家族まではいかないけど、そんな感じ」
◇ ◇ ◇
学習支援を受け始めて半年あまり。13年春、定時制高校に合格した。
真っ先に知らせたのは、中野さんだ。
高校から最寄り駅の公衆電話まで急ぎ、連絡する。「おーっ」。声を上げて喜んでくれた。
頼もしかった父の姿と、どこか重なった。
自らを「家なき子、親なき子だった」と言う少女。失った人とのつながりを取り戻していく。