「本当にごめんなさい」
12日夕、働きながら定時制高校に通う宇都宮市の未来さん(20)=仮名=は、学校で携帯電話のメールを打っていた。
この1年、未来さんは高校卒業を一番の目標にしてきた。「一体、何が…」。受け取った祖父(76)と支援者の氷室初音さん(47)は、学校へ駆け付けた。
学校から、卒業できない可能性がまだ残ると告げられた未来さん。顔を泣きはらし、うつむいていた。
卒業の単位にもれがないか、最終確認を急ぐ先生。「何とか卒業できそうです」。祖父らは胸をなで下ろす。未来さんは、また涙が止まらなくなった。
両親の離婚、生活困窮、全日制高校の中退…。未来さんは苦しい思いを重ねてきた。高校卒業は自立への第一歩になるはず。

支えてくれたのが、祖父母や氷室さん、いまの高校への進学を薦めてくれた上司の施設長女性(68)だ。
◇ ◇ ◇
医療関連施設で働き出したのは2012年夏。
施設長らも母子家庭の厳しさを身に染みて知っている。未来さんに手を差し伸べずにはいられなかった。
当初、連絡もせず欠勤した。周囲に掛ける負担にまで考えが及ばなかった。
そんな姿に同僚たちから疑問の声が上がり始める。
施設長は未来さんの子ども期の厳しい環境を思い、呼び掛けた。「育つのに時間がかかる。高校卒業までできる限り見守ろうよ」
職場の空気は、少しずつ変わっていく。
仕事を終え学校へ向かう時、いつも温かく送り出してくれるようになる。仕事の厳しさ、社会のルールも一から教えてくれた。
期待に応えたくなった。
何かをやり終えた次の日に決まって熱を出してきた未来さん。
高校最後の授業を終えたら、今度も体調を崩してしまう気がする。「突発休」は職場に迷惑が掛かる。「それは嫌」。だから事前に休みを取った。
当たり前のことかもしれない。でも、この1年半で周囲への気遣いができるようになった。
氷室さんは、未来さんだけの成人式を2月下旬に計画している。
市内で1月にあった成人式。未来さんは、不登校になった中学時代の記憶がよみがえり出席しなかった。
「生きていれば、いいこともある、って感じてほしい」。試しに氷室さんが自分の振り袖を着せると、未来さんの笑顔がはじけた。
◇ ◇ ◇
高校を卒業したら、勤務は増え、仕事も大目にはみてもらえないだろう。
自立できるのか、不安は消えない。でも、人に支えられ、ちょっぴり自分に自信を持てるようになった。
自分の足で進めるようになりたい。
一歩ずつ、一歩ずつ。
(第2章終わり)