下野新聞は栃木県の地元紙として、宇都宮美術館の開館前から、同館の作品収集などの開館準備の様子を広く紹介してきました。また、1997年の開館以降も、その展覧会情報をいち早く誌面で取り上げ続けています。
今回、同館で開催されている、開館25周年記念 全館コレクション展「これらの時間についての夢」展は、「時間」をテーマとしています。そこで、12月1日から15日まで、毎日1回ずつ、このページ内で、本誌の宇都宮美術館の記事を再度掲載し、同館の歩みを振り返ります。
これ夢展 担当学芸員の一言
コロナ禍では、作品紹介動画やワークシートを制作してくれました。2022年12月からは来場者と話をしながら作品を見る対話型鑑賞の活動が再び始まりました。
下記は2006年8月27日に掲載された記事です。

「この絵は人物の周りに花と月しか描いていない。普通は村を描く」。解説ボランティアの山崎久江さんは、新たに収蔵・展示したシャガールの「青い恋人たち」について、来場者を前にこう説明。盛り込まれたモチーフの少なさから、作者の悲しみの深さを示唆した。
もう一つの新収蔵作品「緑、赤、青の恋人たち(村の上で)」の前では、「シャガールのすべてが入っている」と語りかけた。代表的なモチーフである故郷の街並みや音楽家が散りばめられたこの作品に、晩年の解き放たれた心境を重ねた。
二つの作品を分かつ心情の違いの説明は、学芸員から得た知識が土台になっている。しかし、各ボランティアは、それぞれに知識を深め、独自の解釈を説明に加えている。
山崎さんは「緑、赤、青の恋人たち」の上部に描かれた丸を太陽、画面右半分は朝、左は昼ととらえる。別の解説ボランティアは丸を月に見たてたという。また、ボランティアの熊澤けい子さんは右下の家並みをパリ、左下は故郷ロシアの夕景と説明する。
同館を代表するマグリット「大家族」について、ボランティアの一人、長岡経子さん(47)は「横から見ると、洞穴の奥から空を見たように感じませんか。鳥はイメージを喚起してくれる異次元ポケット」とユニークな見方を披露した。
解説には好みも反映。約七十点の作品中、山崎さんはクレー「腰かける子供」を模写した体験から作者の洞察力を推測。長岡さんは松本竣介「街」を音に例え、ひときわ声に力を入れた。
教育普及の役割を担う解説ボランティアは、開館した一九九七年から二年間の研修を経て活動を本格化した。県内の公立美術館で唯一の取り組みだ。
現在一、二期生合わせて二十一人のボランティアがいる。三十-八十代で、全員が女性。日替わりで解説に当たっている。
同館管理課長の青木理さんは「ボランティアにマニュアルはなく、間違ったことさえ言わなければ自由に解説してもらっていい。作品の見方に答えはないですから」と方針を語った。