ヒガンバナが咲いた共同墓地

 「公害の原点」とされる足尾鉱毒事件により、1906年に強制廃村となった谷中村。渡良瀬遊水地内の谷中湖北側にある「史跡保全ゾーン」には村の歴史を伝える史跡が残る。

 ヨシ原に囲まれた道の先にある雷電神社跡は、雷よけや豊作祈願の神様が祭られた。谷中村へ移住した田中正造(たなかしょうぞう)が廃村を防ぐため、村民を激励した場所でもある。

 近くの延命院跡共同墓地には住職や元村民の墓石が残っている。ここに立つ角塔婆(かくとうば)は2019年の台風19号で流失したが、市民団体「谷中村の遺跡を守る会」によって半年後に再建された。

 10月上旬、周囲に鮮やかなヒガンバナが咲いた。同会の田名網公(たなあみこう)さん(71)は「彼岸前に周囲の草刈りをしている。今年の花数は例年より少なかった」と話す。風のそよぎの中で、村を去った人の思いが伝わってくるようだ。