JR宇都宮駅東口地区はこの10年で一気に様変わりした。東へ伸びる県道は、道路中央に次世代型路面電車(LRT)の軌道や停留場が新設され、沿道には新築や建設中の高層マンションが林立する。
「35年前ほど前は見通しのよい田んぼが広がっていた」。地元で40年以上、不動産業を営むいがらし不動産の五十嵐薫(いがらしかおる)社長(75)が実感を込めて口にする。LRT事業によって「開発は進んできた」。
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沿線でマンション建設を手がける首都圏のデベロッパーの担当者が明かす。
「購入は主にファミリー層。全体の3割ほどが清原工業団地に勤務している」
宇都宮市によると、市全域の高層建築物(6階以上)の建築確認申請は2021年度までの10年間で91件。このうち4割を占めるのがLRT沿線だ。20日に市内で開かれたまちづくりに関する講演会で、佐藤栄一(さとうえいいち)市長は「建築確認件数は北関東3県で宇都宮だけが伸びている」と胸を張った。
企業の期待も高まっている。ベトナムIT大手「FPTソフトウェア」の日本法人は今年5月、同市東宿郷2丁目のオフィスビルに事務所を開設した。顧客の自動車メーカーなどが清原工業団地にあり、担当者は「LRTは(同ビルに)オフィスを開設した要因の一つ。客先訪問などに利用したい」と説明する。
商業施設も集客拡大の好機と捉える。同市陽東6丁目の商業施設ベルモールは、目の前に停留場ができた。津布久勇治(つぶくゆうじ)支配人は「車が運転できない子供やお年寄りなど、新たな客層の来店が見込まれる」。
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市の人口が17年をピークに減少傾向となる中で、同市ゆいの杜(もり)などは人口が増え、LRT沿線は21年までの10年間に約7%(4100人)増加した。沿線周辺の同市宿郷5丁目の地価はこの10年で約27%上昇。駅近であることに加え、新型コロナウイルス禍に伴うリモートワークの普及も相まって県内最高価格を記録し続けている。地方都市の衰退が加速する中で、LRTが沿線で民間投資を誘発してきた結果とも言える。
経済効果について市は、LRT整備費用などの建設業を中心とした直接的効果約580億円をはじめ、他産業や家計消費支出まで含めた波及効果を計約900億円と試算する。だが、全ての効果が「具体的にいつ出るのかまでは、分からない」。現在は沿線に集中している経済効果。開業後にどう広げ、循環させられるのかが、まち発展の鍵を握っている。