市葛生伝承館で開かれている「祝い掛軸展」

市葛生伝承館で開かれている「祝い掛軸展」

市葛生伝承館で開かれている「祝い掛軸展」 市葛生伝承館で開かれている「祝い掛軸展」

 【佐野】子どもの成長を願って贈った掛け軸を紹介する「祝い掛軸展」が葛生東1丁目の市葛生伝承館で開かれている。明治後期から昭和後期に作られたとされる、色とりどりに縁起の良い人物や風景などが描かれた祝い掛け軸が並ぶ。6月23日まで。

 同館などによると、市内では初正月や初節句などで使われる「際物」の生産が盛んで、祝い掛け軸もその一つだった。「佐野掛地(かけじ)」と呼ばれ、昭和30年代初期には、年間約40万本も生産されていたという。

 明治から昭和の初期ごろ、関東地方の一部地域で子どもが生まれた家に近親者らが掛け軸を贈る習慣があり、贈られた家は座敷に飾ってお祝いした。飾られた掛け軸が多いほど交友関係が多いことを意味し、家格を誇示する役割もあった。

 通常の掛け軸は、絹が使われるなど手間がかかっているが、祝い掛け軸は全体的に簡素な作りなのが特徴。飾られる期間が短く、役割や時期が過ぎるとすぐに廃棄される物だったためと考えられている。

 同展では、同館が所蔵する祝い掛け軸など約70本を展示。男の子に贈られたとされる掛け軸には、加藤清正(かとうきよまさ)の虎退治など逸話の名場面が描かれた物が目立つ。名をはせた戦国武将のように、たくましく育ってほしいという願いが込められているという。

 女の子向けでは、ひな人形やまり突きをしている女性の絵が多いほか、季節や男女を問わず学業成就を願い菅原道真(すがわらみちざね)などが描かれている。それぞれの掛け軸からは送り手の気持ちを読み取ることができ、子どもの成長をみんなで温かく見守ってきた地域の歴史も感じられる。

 同館の中里千尋(なかざとちひろ)さん(45)は「祝い掛け軸は骨董(こっとう)的な価値はないために破棄されやすく、状態の良い物は少ない。展示を通じて佐野で多く作られていたことをぜひ知ってほしい」と話した。

 午前9時~午後5時。入館無料。月曜休館。(問)同館0283・84・3311。