災害後に届けられる食料支援物資は、エネルギーを補うためのおにぎりやパン、カップ麺といった糖質中心の提供になりやすいです。避難生活が長引けば牛乳・乳製品や肉、野菜など生鮮食品が不十分で、健常者でも筋力低下や口内炎、便秘などの症状がみられるようになります。これらはタンパク質や水溶性ビタミン、食物繊維の摂取不足による症状にほかなりません。
配布される弁当は、生活習慣病などの基礎疾患や食物アレルギーを有するなどの要配慮者向けでないことが多く、服用薬が手元にない状況が重なれば病状を急速に悪化させかねません。災害時に助かった命を、その後の避難生活で失わないために、平常時からの備えを進めていきましょう。
災害時の食事を考える際のポイントは、日頃食べ慣れている食品を利用することです。避難生活で不足する食品を補えるような乾物や缶詰め、レトルト食品、野菜や果物のジュース類等の日持ちする食品が適します。これらを少し多めに買い賞味期限の古いものから利用して、また補充する「ローリングストック」を日常的に行うことで必要な備えを実践的に進めることができます。
普段、食べ慣れていない非常食を用意する場合は事前に食べてみて、口に合うか合わないか確認しておきましょう。

ライフラインがストップしてもカセットコンロ、鍋、水、耐熱性のポリ袋があれば温かい食事を準備することができます。温かな食事を摂ることで緊張状態が緩和されたという話もよく耳にします。
耐熱性のポリ袋に食材を入れて湯煎するパッククッキングは真空調理状態になるので調味料が食材にしみ込みやすく減塩効果も期待できます。1人前の白飯であれば、米と水を2分の1カップずつポリ袋に入れ、空気を抜いて袋の口を結び、沸騰した湯に入れて20分間、火を止めて10分間蒸らせば完成です。
ポリ袋が食器やラップ代わりにもなるので、洗い物が出ず、また衛生面での心配もなくなります。白飯の中に具材を入れてポリ袋の外から握ればおにぎりにできますし、具材を入れれば炊き込み飯、水の量を多くすればおかゆにもなります。
災害時は、水や衛生用品の不足や食品の管理方法の誤認など種々の要因により避難所において食中毒も発生しやすくなります。食中毒予防の3原則「つけない・ふやさない・やっつける」を周知し、(1)おにぎりを握る際には素手で握らないなど、食材に直接触れない(2)調理用具は使用後、消毒する(3)体調不良の人は食品の調理や配布をしない-などの点にも留意しましょう。
詳しくは「災害時に備えた食品ストックガイド」(農林水産省)が参考になります。要配慮者向けの資料も発行されているのでぜひ目を通していただきたいです。
大森玲子教授略歴

宇都宮大地域デザイン科学部教授。専門は食生活学。石川県出身。お茶の水女子大大学院修了。博士(理学)。防衛医科大学校、国立健康・栄養研究所などを経て、2006年宇都宮大着任。16年同大地域デザイン科学部教授、22年から学長特別補佐。県青少年健全育成審議会委員、宇都宮市教育委員会委員など。