木造平屋の日本家屋で6月、リフォーム作業が進んでいた。日光市足尾地域北部の下間藤(しもまとう)。ダイニングキッチンが新たに備えられ、奥には畳の和室が広がる。

 「和朗庵(わろうあん)」。1棟貸しの宿泊施設として今秋の開業を目指している。

 営むのは足尾出身、さいたま市在住の都築葉子(つづきようこ)さん(60)。家屋は、近くで商店を経営する両親が30年ほど前、知人から譲り受けた。地域の人たちが宴会場などとして利用した。

 鉱都と呼ばれるほどに栄えた足尾。昭和期までは旅館や民宿が軒を連ねたが、現在残る旅館は2軒のみ。

 「もっと人が来て、滞在時間を増やしてほしい」

 開業を目指すきっかけは、都築さんが生まれ故郷を憂う思いだった。

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 2007年に閉校する前の足尾高卒業後、足尾を離れた都築さん。帰郷のたび、地域の衰退を感じた。

 店が減り、人が減る。かつて数日間続いた祭りは、1日だけになった。寂しかった。幼少期、華やかに映った町が色を失っていくように感じた。

 「こういう場所をなんとかしなきゃいけない」

今秋開業を目指す宿泊施設「和朗庵」で思いを語る都築さん。かつての地域の憩いの場を再生させる=6月上旬、日光市足尾町下間藤
今秋開業を目指す宿泊施設「和朗庵」で思いを語る都築さん。かつての地域の憩いの場を再生させる=6月上旬、日光市足尾町下間藤

 就職などを経て大学院で学び直し14年、まちづくりコンサルタントとして起業した。脳裏にあったのは故郷・足尾の姿。現在は全国の自治体などに助言しながら、足尾の世界遺産登録に向けた運動にも加わる。

 和朗庵は、自身の原点への「恩返し」。自然を求める都会の富裕層、外国人観光客の利用を思い描く。

 「昔、足尾に住んでいて懐かしくて来る人も多い。そういう人にも使ってほしいな」。父の藤森邦雄(ふじもりくにお)さん(93)も期待する。

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 日光市も今春、誘客促進へ新たな「足尾の観光による地域づくりプロジェクト」をスタートさせた。

 かつての坑道を使い今も観光の柱である「足尾銅山観光」改修、わたらせ渓谷鉄道と連携した企画列車、観光拠点の周遊ルート明確化-。旧足尾町が周辺4市町と合併した2006年、30万人超だった足尾の入り込み客数は今、約3分の1まで減った。抜本的な対策が急務だった。

 「日本の経済発展の歴史と自然の調和を考える上で、これ以上の地域はない」。同市足尾行政センターの菊地裕之(きくちひろゆき)所長(53)は意気込む。

 官民それぞれに動き出した観光による地域振興。足尾全体を巻き込む再生の道を探ろうとしている。