ひ孫を囲む浅見さん(右)と妻稲子さん(後ろ)、長女美子さん(中央)たち。家族のつながりが高齢の夫婦を支える=2022年11月中旬、日光市足尾地域

 2022年11月上旬の夕方。日暮れの早い山あい、足尾の静かな一軒家に着信音が響いた。足尾銅山の元鉱員、浅見幸雄(あさみゆきお)さん(90)と妻稲子(いねこ)さん(87)のタブレット端末にビデオ通話の連絡が入った知らせだ。

 おぼつかない手つきで画面の通話ボタンを押すと、県外で暮らす孫家族が映し出された。「あれー、大きくなって」「分かるんかな、なんかしゃべってるわ」。テーブルに身をのり出す2人。画面の向こう、生後3カ月のひ孫の姿に相好を崩した。

 タブレット端末は数年前、神奈川県内に住む長女、児玉美子(こだまよしこ)さん(62)がプレゼントしてくれた。足尾で暮らす夫妻と、遠く離れた子や孫、ひ孫たちをつないでくれる。

 事あるごとに写真や動画が送られてくる。別のひ孫のサッカーの試合、ピアノの発表会…。「年中見られるから。会わなくても、いつも会ってるみたいな感じ」。タブレット端末でつながっているいっとき、高齢の2人暮らしでいることを忘れさせてくれる。

 これからのことを考えると、不安はある。2人でいつまで健やかに過ごせるのか。自分たちがいなくなったら、この家はどうなるのか。それでも「どこにも行きたくねえ。足尾が一番、いいんじゃねえか。生まれ育った、所だから」。

 そんな父が昨年、酒を飲んでふと漏らした言葉に、美子さんは驚いた。「そっちの方に(高齢者向けの)施設、どっかないんか」。父は自分たちの衰えを実感している-。そう受け止めた。

 ビデオ通話から2週間ほど後の休日、普段は静かな浅見さん夫妻の家が騒がしくなった。庭先でのバーベキュー。0歳から90歳まで、娘夫婦や孫、ひ孫たち4世代、総勢11人が集まった。

 美子さんの声が響く。「けんちん汁、ばあちゃんが山ほど作ったって」。稲子さんの手料理に舌鼓を打ち、山を眺め、たわいない話で笑い合う。浅見さん夫妻、美子さんだけでない。足尾は家族皆にとって、かけがえのない場所になっている。

 日光市南西部の山あい、一時は銅山で隆盛を極めた町・足尾。50年前の銅山閉山まで、ヤマで働く者と家族、商人らが集い、今は登山客やはげ山に緑を取り戻そうとする人たち、この地に魅了された人たちが集う。