前日の雪が残る2月中旬、足尾銅山の製錬所があった日光市足尾地域の本山地区。「銅山や製錬の話は、言葉だけより見てもらうのが一番」。足尾を訪れた観光客らのガイドを引き受ける市民団体「足尾まるごと井戸端会議」のメンバー、山田功(やまだいさお)さん(70)は白い息を吐き、声に力を込めた。
目の前には明治期に造られた国重要文化財の古河橋。視線を移せば、国指定史跡の本山製錬所跡、大正期に建てられた製錬所大煙突も見える。
現在、足尾には文化財保護法に基づく国指定史跡が6カ所ある。いずれも足尾銅山に関わる遺跡。法で守られているからこそ、「今もこうして、実物を目の前にしてガイドができる」。山田さんは文化財指定の意義を実感している。
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もともと、足尾に国指定史跡はゼロだった。
指定が進んだきっかけは、2006年に発足した市民団体「足尾銅山の世界遺産登録を推進する会」を中心とした推進運動。世界遺産登録の国内暫定リストに選ばれるには、複数の国指定史跡があることが前提条件だった。
銅山関連施設の多くは古河機械金属の所有。「協力」の方針は、当時の吉野哲夫(よしのてつお)社長が自ら明言している。日光市は着々と、関連施設の調査を進めた。
足尾銅山を世界遺産に-。大きな目標に向け、まずは08年、現在は「足尾銅山観光」として活用される通洞坑とダイナマイトなどを保管していた宇都野火薬庫跡が国指定史跡となり、その後は本山製錬所跡、本山坑、本山動力所跡、本山鉱山神社跡も加わった。
推進する会の神山勝次(かみやましょうじ)会長(79)は「世界遺産登録に向けた運動があったから、ここまで指定史跡が増えた」と自負する。
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しかし銅山関連の産業遺産は非公開が少なくない。国指定史跡も6カ所のうち4カ所は公開されていない。銅山施設は鉱山保安法で立ち入りが制限される。
「『非公開施設をもっと見たい』っていう声は、バンバンあるよ」。ガイドとして観光客や学生らを案内する山田さんは、足尾を訪れる人たちのニーズを痛感している。時折、非公開施設の見学会が開かれるが、事前予約が必要な場合が多い。
足尾地域の観光入り込み客数は新型コロナウイルス禍前の2019年、約18万6千人。せっかく足尾の産業遺産に関心を持って来てくれる人たちがいるのに、その価値を目の当たりにしてもらえないのがもどかしい。