金属鉱業等鉱害対策特別措置法。鉱山閉山後も永続的に鉱害防止措置を講じることを目的として、1973年に制定された。足尾銅山閉山と同じ年。以来、10年ごとに国全体の「基本方針」を決め、対象になる各鉱山の坑廃水処理、堆積場の流出防止工事など鉱害防止措置を続けている。

 2023年度からの第6次方針の対象予定は92鉱山。このうち坑廃水処理が必要なのは74鉱山。県内はいずれも日光市の足尾銅山、銅などを産出した旧小百鉱山の2カ所が含まれる。

 かつて「東洋一の硫黄鉱山」と呼ばれた、岩手県の旧松尾鉱山もその一つ。1972年に閉山した。経営した松尾鉱業は倒産。その後も強酸性の坑廃水が流出し続け社会問題となった。

旧松尾鉱山の坑廃水処理施設。有害物質を除去するなどした後、近くの川へ放出している=15日午後、岩手県八幡平市
旧松尾鉱山の坑廃水処理施設。有害物質を除去するなどした後、近くの川へ放出している=15日午後、岩手県八幡平市

 「これだけの規模ですから。半永久的な処理が続くと思う」。同鉱山の坑廃水処理施設を管理する独立行政法人「エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)」松尾管理事務所の平井浩二(ひらいこうじ)所長(57)は言う。

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 同鉱山は経営企業が倒産し、鉱害防止を講じる事業者がいない「義務者不存在」となった。地元の岩手県が77年に処理施設の建設に着手、施設の運営管理はJOGMECの前身の事業団に委託された。

 閉山から半世紀を経た現在も年間で東京ドーム7・3杯分、約900万立方メートルの坑廃水を処理している。国と岩手県が負担する処理費用は年間6億円前後。基本方針の対象鉱山は義務者が存在しても、処理費用の一部に公費が充てられる。国が補助金として負担する額は年間約20億円に上る。

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 半永久的に続く処理-。

 抜本対策は坑廃水の流出口を全て完全にふさぐことだが、事実上不可能とされる。微生物などによるパッシブトリートメント(自然回帰型坑廃水浄化システム)がJOGMECなどによって研究されているが、導入は緒に就いたばかりだ。

 旧松尾鉱山で湧き続ける坑廃水を見ながら、東京電力福島第1原発事故と国の原発政策が頭をよぎった。同鉱山や足尾銅山が閉山した70年代、第1原発は運転を始めた。それから半世紀、日本が前提とする使用済み核燃料を再処理・再利用する「核燃料サイクル」は今も実用化が見通せない。

 だが政府は2月、原子力発電を「最大限活用する」と明記した「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定した。ロシアのウクライナ侵攻、エネルギー安全保障が理由の一つという。

 原発事故から12年、廃炉作業は続いている。