俳優の今田美桜さん=福岡市出身=が福岡県産「あまおう」を口に運ぼうとした瞬間、カメラのフラッシュのおびただしい明滅が会場を包んだ。11月中旬、東京・銀座。2003年度の本格販売から20年目のあまおう記念イベントには、多くのメディアが集った。

東西イチゴ最前線 拡大 「博多あまおう」の本格販売から20周年を記念し、俳優の今田美桜さんがあまおう大使に就任した=11月15日、東京
東西イチゴ最前線 拡大 「博多あまおう」の本格販売から20周年を記念し、俳優の今田美桜さんがあまおう大使に就任した=11月15日、東京

 「あまおめ、なのだ」。あまおう大使に就いた今田さんは、あまおうの「あま」、おめでとうの「おめ」をとったキャッチコピーを披露。在京メディアの発信力を意識した演出だった。

 4割、3割、3割-。あまおうはこの比率で関東、関西、九州内に出荷。特に大消費地の首都圏市場を意識し、東京都中央卸売市場に一定量を振り向けてきた。東で認知されるように、東京中央卸売市場の大田市場に一定量の出荷を振り向けてきた。

 デビューからわずか2年後、同市場での取扱量は「とちおとめ」に次ぐ規模に成長。単価が安定し始めた08年ごろには「東京での認知度定着を感じるようになった」(県関係者)という。

 売り先はスーパーだけでなく、都内の百貨店や高級果物店に贈答用として広げてもらい、高級感を売りにした。それが、22年産まで「18年連続で単価日本一」につながっていく。

あまおう
あまおう

 福岡県は外食産業にも積極的に売り込む。17年に県庁内に「福岡の食販売促進課」を立ち上げ、ホテルや人気菓子店に直接営業。取り扱いを増やしてきた。

 東京・紀尾井町のホテルニューオータニは、「あまおう」と銘打ったスイーツビュッフェを18年から毎年開催する。料金は8千円前後だが、コロナ禍が襲った後も売上高は毎年2割増。「あまおうさまさまです」。パティシエ部門の鈴木薫統括料理長(57)から笑みがこぼれる。看板メニューはショートケーキ。「ケーキに合うのはイチゴの中で一番果肉の柔らかいあまおう」と鈴木料理長。イチゴよりも「あまおう」とうたう方が客の反応はよく、年間使用量は約7トンに及ぶ。

若い世代に人気の伊都きんぐの「いちご飴」=3日午後3時26分、福岡市・天神
若い世代に人気の伊都きんぐの「いちご飴」=3日午後3時26分、福岡市・天神

 あまおうを使った加工品を販売する伊都きんぐ(福岡県糸島市)は「イチゴ加工のプロになる」をコンセプトに、1ヘクタールの自社農園で菓子に合うあまおうを栽培する。あまおうをまるごと包んだどら焼きなど商品は50種類以上。「お菓子を作り続けることが、あまおうの価値を高めることにつながるはずだ」と、担当者は力を込める。

 加工品との相乗効果を県はこう評する。「イチゴの季節以外も消費者があまおうに接することができる。(福岡の玄関口である)JR博多駅に並ぶ商品に使われるケースも増えた」

「伊都きんぐ」の看板メニューは「あまおう」がまるごと入ったどら焼き「どらきんぐ」=11月中旬、福岡市・天神
「伊都きんぐ」の看板メニューは「あまおう」がまるごと入ったどら焼き「どらきんぐ」=11月中旬、福岡市・天神

 全国区に成長を遂げたあまおうは、県民人気も健在だ。「福岡県内であまおうは1強状態」と明かすのは九州最大の卸売会社、福岡大同青果(福岡市)の担当者。「他県で独自品種が開発されても出回らない」という。死角はないのか-。

 「これ以上値段が上がると…」。関係者からはそんな声が漏れる。22年産の単価が過去最高を更新した半面、生産量は減少傾向。「取り合いになってこれだけの単価になっている」。懸念するのは値上がりによる消費者離れだ。実際、あまおうフェアをやりたくても、安定的な入手に不安があり、踏み出せないホテルや飲食店もあるという。

 一方、多品種をそろえる栃木県は「おいしさと求めやすい価格で勝負する」(福田富一知事)戦略を描く。安定供給に向けても収量の多い次世代エース「とちあいか」に生産をシフトし、九州勢が主戦場とする関西への販路拡大を狙う。

 ただ、高齢化による離農が進む中、両県とも生産戸数や作付面積は減少。生産力の維持が重い課題としてのしかかる。