介護事業所の女性が、人材紹介会社と結んだ契約書。紹介手数料の取り扱いが書かれている

 「人材紹介会社から保育士を紹介されて雇ったら、10日で辞めたのに手数料を34万円請求された」-。障害児を支援する福岡県の放課後等デイサービス(放課後デイ)事業所側から、西日本新聞「あなたの特命取材班」に不満の声が届いた。保育や介護、医療分野では、人材紹介を巡るこうした訴えが少なくない。取材を進めると、事業者間のトラブルにとどまらない課題も見えてきた。

 放課後デイは、学校の授業後や長期休暇に障害児を預かり、支援や訓練をする。この事業所は昨年4月、保育士1人を採用した。

 ところが入社10日後に退職。手数料は契約上、この保育士の年収の25%で、短期で辞めると在籍期間に応じて減額となる。計算の結果が約34万円。「すぐ辞めたのに、おかしいでしょ」。代表の男性(51)は語気を強める。

 福岡県で介護事業所を運営する女性(65)も似た経験をした。4年前に紹介会社から介護職員を採用したが、高齢者に薬を服用させる際にミスを繰り返した。勤務態度も悪く、双方合意の上で給料や必要な手当を支払って解雇した。在籍は約20日なのに、手数料は20万円以上。「仕事を教える手間が増えただけだった」

 二つのケースは支払いについて、今も紹介会社と折り合いが付いていない。

 保育と介護、医療分野は、運営が公的な資金に支えられている。介護報酬と診療報酬の原資は税や保険料が含まれ、保育も公費補助がある。「公的なお金が、すぐに辞めた職員の手数料に回ることになる。それはどうなのか」。二つの事業所から相談を受けた社会保険労務士は首をひねる。

紹介事業ないと…

 一方、現場は人手不足で、紹介事業なしに回らないのも事実だ。厚生労働省の集計では、紹介による就職は2017年度の約64万人が、21年度は約70万人に増えた。1人当たりの平均手数料は保育分野が53万円、介護分野42万円、医師は99万円に上るものの、利用する事業所は多い。

 その理由を、福岡県の介護施設の男性は「ハローワークに求人を出しても応募はほぼないから」と明かす。職員が足りないと現場は疲弊し、決められた人数を割れば行政処分となる。「ハローワークを通して雇えば1円もかからないけど、人材紹介は急な退職時に頼りになる。悩ましい」

 紹介事業では、悪質な会社が就職の決まった人に「祝い金」を出し、転職を促して再就職先からさらに手数料を得る行為が横行し、離職の温床になっていると批判されてきた。

 国は18年以降、すぐに退職した際の手数料の一部返金の促進や、就職後2年間は転職勧奨を禁止することを職業安定法などで規定。祝い金を禁止したほか、要件を満たした紹介会社を適正事業者と認定する制度も始めている。

 それでも、厚労省によると、祝い金は21年度だけで8件を確認。昨年6月に閣議決定した規制改革実施計画で、6カ月以内の退職の場合、手数料の相当額を返す方向で認定制度の見直しを検討することになった。ハローワークの機能強化も盛り込んでいる。

早期退職の責任は

 紹介会社側は、すぐに退職した場合の手数料をどう考えているのか。業界団体の日本人材紹介事業協会の担当者は「人材が定着するかは個人の能力だけでなく、就職先が本人をどう処遇するかなど、さまざまな要素がある。手数料が高額か、一概に結論付けるのは難しい」と説明した。

 求職者が紹介会社を頼るのも理由があるようだ。淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は、入社前に紹介会社側から企業情報を詳細に得られる点を挙げる。

 紹介会社の仲介で先に就職した人の働きぶり、休日の取りやすさ、従業員の雰囲気-。ハローワークでは得られない職場の内情を聞けるといい、「入社後のミスマッチがなく、うまくいっている面もある」。

 結城教授は紹介事業の貢献を認めた上で、「問題は短期で辞めた際の手数料。長続きしないような人を勧めたのなら、紹介会社にも問題がある。退職の経緯を精査し、紹介した側に責任があれば手数料をごく少額にするなど、法令を整備すべきだ」と提言した。(西日本新聞)

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