那珂川町の特産品「温泉トラフグ」の養殖に取り組んでいた町内企業が養殖事業から撤退し、引き継ぐ事業者が見つかっていない。町のふるさと納税の返礼品として高い人気があり、町内の飲食店などでは目当てにする客が目立つなど、町に欠かせない品だった。このまま途絶えることは「町の産業にとって大きな痛手」と話す関係者。町は事業の継承に関心を持つ業者らからの相談を積極的に受けている。10年以上かけて育ったブランドは岐路に立っている。
温泉トラフグの始まりは15年ほど前にさかのぼる。町内で環境分析などを行う会社を経営していた野口勝明(のぐちかつあき)さん=2020年に63歳で他界=が、町内で湧出する塩分を含んだ温泉水を地域活性化に生かそうと、高級魚のトラフグを温泉水で養殖する研究を始めた。2010年には株式会社「夢創造」を設立し、養殖や販売事業を本格化させた。17年には、町内企業が事業を引き継いだ。
海のない本県で、全国初の温泉水による海水魚の養殖は話題を呼んだ。
町のふるさと納税の返礼品に登録されると、一時は年間寄付額の半額程度が温泉トラフグを返礼品とする寄付だったこともあった。町観光協会などが過去に実施した養殖場などの見学ツアーは「すぐに満席になった」(同協会)。同協会の担当者は「根強いファンがいて、飲食店や宿泊施設にはかなりの恩恵があったのでは」と話す。
一方で、本来は海上で育つトラフグの陸上での養殖は簡単ではない。水温や水質の管理には手間とコストがかかり、病気のリスクも高い。関係者によると、昨年10月、養殖事業を引き継いでいた町内企業が町役場を訪れ、赤字が膨らんでいることを伝え、返礼品からの取り下げを要請。今年春ごろの最終出荷で、企業は養殖事業から撤退した。
町には今年の初めごろから、温泉トラフグの養殖に関心を持つ業者などから、月に数件程度の相談が寄せられている。10月末にも、関心を持つ関東圏在住の個人からの相談を受けたばかりだ。町は「町の目玉であり、野口さんの地域活性化の思いも引き継ぎたい。町内で生まれた技術を大切にしてくれる人を探したい」としている。