「車内をのぞく人もどうなの」-。鹿児島市で9月下旬、車内で下半身を露出した男性が公然わいせつ容疑で逮捕された事件を報じた南日本新聞のネット記事に、目撃した女性を非難する書き込みが相次いだ。性犯罪報道は被害者保護の観点から情報を極力伏せる傾向がある。専門家は「事件の重大性が伝わらず、誤解や偏見による二次被害を生みかねない」と訴える。
9月19日午前6時40分ごろ、路上に止めた乗用車の運転席で下半身を露出したとして、県警は同27日、公然わいせつの疑いで鹿児島市中山町の会社員の男性(25)を逮捕し発表した。7月にも同容疑で逮捕されており、いずれも10月12日付で略式起訴された。
県警は取材に「下半身を見せられたとの110番が女性の関係者からあった」と説明。下半身の見せ方など詳しい状況は、被害者保護や捜査への支障を理由に明らかにしなかった。
コメント欄で中傷
南日本新聞は、男性が車内で下半身を露出したとの逮捕容疑に加え、「通りがかった女性が目撃し、関係者が110番した」と報道。ヤフーニュースに配信した記事のコメント欄には「車内で着替えていただけでは」との臆測や、「男女逆なら男がのぞきで通報される。女強すぎ」「女は男の股間ばかり見ているのか」との中傷が飛び交った。
「せめて、男の故意の行為と伝わる書き方はできなかったか」。書き込みに苦しむ女性の家族が取材に応じ、訴えた。家族によると、目撃したのは10代学生。幅の狭い道路で背後から来た車に道を譲ろうと自転車ごと脇に寄った際、車を横付けしてきた男性が無言で車窓を下し自慰行為を見せつけてきた。「逃げられない状況だったにもかかわらず、批判され心の二次被害に遭った」と憤る。
直接的な表現避け報道
被害者の特定を避けるため、性犯罪は他の事件に比べ、被害者の年代や職業、犯行場所など明かされない情報が多い。報道機関も性交などの犯行を「乱暴」「わいせつな行為」、精液を「体液」などとし、直接的な表現を避けている。
性暴力支援に詳しい三重県立看護大学の杉山泰子講師=母性看護学=は今回の記事について、下半身を露出し「見せた」と書くだけでも印象は違ったと指摘。ネット記事が普及し書き込みの声が被害者に届きやすくなっているとして、「事件に触れてほしくない被害者への配慮や匿名性の確保は重要だが、分かりにくい間接的な表現や情報の少なさが臆測の幅を広げ、誹謗(ひぼう)中傷を誘発する側面がある。通報は他の被害を生まないためにも大事な行為。読者側も安易に批判しないモラルを持つべきだ」と話した。(南日本新聞)
公然わいせつ罪
不特定多数の人に見られる可能性のある駅や公園、路上など「公然」の場で、性器の露出など性的道義観念に反する行為をすること。6月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金などが科される。