宇都宮地裁判決が確定する見通しとなり、訴訟を振り返る毛塚さん=30日午後6時50分、栃木市内

 那須雪崩事故の民事訴訟は30日、栃木県と県高校体育連盟(高体連)が控訴見送りを表明したことで、宇都宮地裁判決が確定する見通しとなった。「控訴しないと思っていた」「妥当な判断」。遺族は県の意向を冷静に受け止めた。一方、法廷で登山講習会の責任者だった教諭ら3人の口から事故の認識を直接聞くことはかなわなかった。3人が業務上過失致死傷罪に問われた刑事裁判は係争中だ。遺族は「まだ通過点」「事故の原因や責任の所在を明らかにしたい」と考えている。

 「県側にはこれ以上材料がなく、控訴しない結論になるだろうと思っていた」。引率教諭だった毛塚優甫(けつかゆうすけ)さん=当時(29)=の父辰幸(たつゆき)さん(71)は淡々と語った。

 息子に対して県が主張した過失相殺。判決は「引率教諭に過失は認められない」と退けた。「息子の名誉が守られた。ほっとした」

 刑事裁判を見据え、「教諭ら3人にどういう過失があったのか民事訴訟では踏み込めなかった。明らかにしてほしい」と願った。

 高瀬淳生(たかせあつき)さん=当時(16)=の母晶子(あきこ)さん(56)は「当然の成り行きで妥当な判断。モヤモヤは残るけど、ひとまず終結」と気持ちを整理した。

 県側の控訴見送りは、仕事の休憩中に弁護士からのメールで知った。帰宅後、仏壇に線香を手向け、遺影の淳生さんに語りかけた。「民事裁判終わったよ。けど、まだ通過点だね」

 判決では、遺族が求めた3教諭ら個人への賠償責任は退けられた。「3人にしっかり事故に向き合ってもらいたいし、きちんと話し合いたい」と語った。

 奥公輝(おくまさき)さん=当時(16)=の父勝(まさる)さん(51)は「控訴期間の2週間を不安な気持ちで過ごす覚悟もしたが、思ったより早い判断で良かった」と評価した。

 6月27日は公輝さんの誕生日。23歳を迎えるはずだった。「1つが終わった。残る刑事裁判を見守ってほしい」と思いを伝えた。

 県側の控訴見送りを受け、遺族側代理人の石田弘太郎(いしだこうたろう)弁護士は「判決は教諭ら3人の過失を前提に県の賠償責任を認めた。これまで組織の責任だと曖昧な主張をしてきた県には、この点を重く受け止めてほしい」と強調した。