『株式会社高知クロシオンズ』を承継できたとして、誰かがその運営に携わらなければならないのである。奨吾(しょうご)らは公務員なので、そう簡単に民間企業に出向することなどできない。リーグ戦になったら準備などでかなりの人手が必要となるはず。それをどこから雇い入れるのか。難しい問題だ。

④試合会場(アリーナ)の確保。

 B3リーグのクラブ資格要件として、公式試合を開催するアリーナの要件も規定されている。詳細は「収容人数が千五百名以上のアリーナで相当数の公式試合が開催できる見込みがあること」だ。実はこれまでの課題のうち、もっともクリアが容易(たやす)いのがアリーナの確保だと奨吾は思っていた。

 市内にある〈堅魚(かつお)アリーナ〉の存在だ。これは二十年以上前、高知で国体が開催されることが決まったとき、県の補助金を受けて建設された多目的体育館だ。千五百名は優に収容できるはずだ。普段は小中学生の剣道教室か、お年寄り向けのヨガ教室くらいにしか使用されておらず、宝の持ち腐れとか陰で言われている。使用するのは難しくない。

 書き出した課題を改めて眺める。大きな課題はこの四つか。これらをクリアしなければバスケットボールチームを作り出すことができない。しかも悠長なことは言っていられない。もしも来年秋からのリーグ戦に参加したいのであれば、十一月三十日までに書類を揃(そろ)えて申請しなければならないのだ。今日は九月二十八日。期限まであと二カ月足らずしかない。

 階段を下りてくる足音が聞こえた。妻の律子(りつこ)がリビングに入ってきた。すでにパジャマを着ていて、顔には化粧水パックが貼ってある。奨吾を見ても何も言わない。彼女にとって奨吾は置物以下の存在だ。律子は冷蔵庫を開け、自分の名前の付箋が貼られたヨーグルトをとり、それを手にリビングから出ていった。