「僕たちはえろう盛り上がりました。当然ですよね。いきなりスポンサーが現れて、Bリーグのチームを作るって言い出したんですから。それからとんとん拍子に話は進みました。僕が最年長だったので代表になりました。スカウトにも力を入れて、メンバーを募集しました」

 ところが今年の春、事態が急転した。コネクトエネルギーに詐欺疑惑が持ち上がり、訴訟沙汰まで発展した。社長とは連絡がとれなくなった。弁護士に相談しても好転せず、遂(つい)にチームは解散してしまった。

「でも今は目が覚めたっていうか、割とせいせいしているんです。僕たちは社会人チームなので、みんな正業があるわけやし。甘い夢を見ていたって感じですかね」

 菊池(きくち)が明るい表情で言った。強がりではなく、本音を語っているのは表情でわかった。無念さのようなものは一切感じられない。菊池自身は昼は高知市内にあるガス会社で働くサラリーマンらしい。

「つかぬことをお聞きしますが」奨吾(しょうご)はようやく本題に入った。「高知クロシオンズのチームを丸ごと譲っていただく。そういうことは可能でしょうか?」

 菊池は口をあんぐりと開けている。突拍子のない提案に驚いているようだ。奨吾が事の経緯をかいつまんで説明すると、ようやく得心したようにうなずいた。

「なるほど。そういうお話ですか。まあできないこともありませんよ」

「えっ? できるんですか?」

 仮にクロシオンズを承継できれば、来年秋からのB3リーグ入りが可能なのだ。すでにクロシオンズは申請済みで、チームとしての体裁は整っている。あとは来年のB3リーグへの参加申請をすればいいだけだ。

「物理的には可能です。幸いなことに借金もないですし。ただ……」菊池は腕を組んで考え込む仕草を見せて言った。「かなり大変だと思いますよ。一言でバスケチームの運営といっても、やることは無限にありますからね。一からチームを作り直す感覚でしょうか」