一瞬、場が固まる。何を言っているんだ、こいつは。そんな心の声が聞こえてきそうだ。奨吾(しょうご)はもう一度言った。
「バスケットボールのチームをうちで作るんだ。そして将来的にBリーグを目指す。いい町おこしになると思わないか?」
ほんの思いつきだ。奨吾自身、バスケットボールに造詣が深いわけでもないし、素人同然だ。実現するとは夢にも思っておらず、議論の対象になればいいと思って提案しただけだ。
「バスケって、あのバスケですよね?」
怪訝(けげん)そうな顔でメンバーの一人が言った。その言葉に対して奨吾はシュートを放つ仕草(しぐさ)とともに答えた。
「そうだよ、あのバスケだ」
奨吾はスマートフォンを出し、大手動画投稿サイトのアプリを開いた。「バスケ、試合」と入力して検索をかける。出てきた動画を適当に選んで再生する。アメリカのNBA、ロサンゼルス・レイカーズの昨シーズンのダイジェスト動画だった。大観衆の声援を受け、大きな選手たちが躍動している。
「無理だと思うけどさ、うちの町でこんな試合ができたら凄(すご)いよな。まあ、百パーないとは思うけど」
奨吾はそう言ってスマートフォンの画面をメンバーたちに見せた。八村塁(はちむらるい)の絶妙なパスを受けたレブロン・ジェームズが豪快なダンクシュートをリングに叩(たた)き込んでいた。
「失礼します」
奨吾はそう言って市長室の中に入る。窓際にある重厚なデスクに市長である永川彰浩(ながかわあきひろ)の姿はあった。今年で五十八歳になる永川は市政始まって以来の五十代の市長だ。五年前に初当選して現在は二期目。これまで代々続いた長老然とした市長とは違い、自分の意見を物申すタイプの首長だ。
「例の件やな」
「はい」
奨吾は永川の前に立ち、用意していた資料を差し出した。A4の用紙三枚にまとめた計画書だ。