実名報道がテーマの分科会では、36人が死亡した2019年の京都アニメーション放火殺人事件や、容疑を否認することで身柄拘束が長期化する「人質司法」の問題を題材に、実名・匿名を巡る報道姿勢や社会への発信の仕方などを議論した。
京都新聞社の山本旭洋(やまもとあきひろ)氏は、犠牲者のうち19人が匿名で審理された裁判員裁判の報道について報告。「命の重さを伝え、事件の全体像を社会で正確に共有するため」として初公判で全員の実名を報じた中、メディアにより対応が分かれたことを説明した。

取材班は「亡き人の名前は誰のものなのか」という問題意識を持ち、議論を積み重ねたという。山本氏は「後世の検証という意味で記録は必要。実名を原則とする以上、理由を引き続き丁寧に説明していかねばならない」と述べた。

外為法違反罪などに問われ、後に起訴が取り消された大川原化工機(横浜市)の大川原正明(おおかわらまさあき)社長らも登壇した。朝日新聞社の豊秀一(ゆたかしゅういち)氏は「われわれも憲法や国際人権感覚が問われている。匿名・実名は犯罪報道の枠内の議論で良いのか」と指摘。「権力監視というジャーナリズムの基本に立ち返った実名報道の再定義が求められている」と訴えた。
■座長
樋川義樹氏(山梨日日新聞社政経部部長)
大谷聡氏(朝日新聞東京本社社会部次長)
■講師
大川原正明氏(大川原化工機取締役社長)
角川歴彦氏(KADOKAWA元会長)
■報告者
豊秀一氏(朝日新聞社編集委員)
山本旭洋氏(京都新聞社編集局報道部次長)
佐藤雄氏(ハフポスト日本版ニュースエディター)
樋川義樹氏