自治医大発ベンチャー企業の「ブロードビーンサイエンス」(栃木県下野市薬師寺、黒尾誠(くろおまこと)社長)は、慢性腎臓病による臓器の機能低下を防ぐため、人工透析患者の血中からリン酸カルシウムの結晶(CPP)を取り除く装置「CPP吸着カラム」の開発に取り組んでいる。同社はCPPが全身を老化させる原因の一つと考え、装置によって動脈硬化の改善などの効果を見込む。透析医療の新しい治療として、3年後の製品化を目指す。
黒尾氏は同大分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部の教授で、リンと老化の関係などについて研究している。
リンは生命に必要な6大元素の一つで、肉や魚などの食べ物や食品添加物に含まれている。通常余分なリンは尿として排泄(はいせつ)されるが、排泄されず血中のリン濃度が高まると、CPPが析出する。黒尾氏はCPPが血管や腎臓などの機能を悪化させることを発見した。
透析ではCPPが除去できないため、透析患者は動脈硬化などの症状が進みやすいという。そこで黒尾氏は2015年から、化学メーカーのカネカ(大阪市)と装置の共同開発に取り組み始めた。
17~21年にはミニブタを対象に透析治療に装置を導入した際の効果を検証し、動脈硬化の改善や透析開始4週間の生存率の向上などの効果があった。21年7月には、CPPの吸着技術など関する特許も取得。現在は透析患者を対象にした臨床試験を行っており、早ければ3年後に製造販売できるという。
黒尾氏は本年度で同大を定年退職するが、退職後も研究を続けるため21年4月に同社を設立した。同大が企業からの寄付を活用して研究部門を設置する制度を使い、来春以降も学内で事業を続ける。今年5月までに、栃木銀行などが設立した「とちぎ地域活性化2号ファンド」と日本政策金融公庫から出資や融資の協調支援を受けた。
黒尾氏は「高齢化社会の中、装置は国内外問わず需要があるはず。リンの過剰摂取が老化を加速させることを広めたい」と話している。