第96回選抜高校野球大会は3月18日に開幕する。昨秋の関東大会で7年ぶりの頂点に立ち、明治神宮大会で県勢初の準優勝を飾った作新学院が2年連続12度目の出場を決めた。2年連続で夏の甲子園出場を逃した悔しさからはい上がり、成長を遂げた作新学院ナインの軌跡を追う。

昨秋は公式戦10連勝の原動力となり、エースとして覚醒した小川哲=明治神宮大会準決勝、関東一(東京)戦より

 乾いた金属音を残し、白球が左翼席へと吸い込まれる。ベンチの片隅で作新学院の小川哲平(おがわてっぺい)はぼうぜんと打球の行方を見送った。

 昨夏の選手権栃木大会決勝。作新学院は文星芸大付にサヨナラ本塁打で敗れた。先発の小川哲は2回2失点と試合をつくれず降板。泣き崩れる先輩たちの姿を目に焼き付け「必ずチームを勝たせられる投手になる」と誓い、涙を拭った。

 それまで同大会を10連覇していた作新学院の記録が途絶えたのが22年夏。悔しさをバネに翌春のセンバツで8強入りし、夏の最有力候補とされた前チームだっただけに、2年連続となる夏の敗戦への落胆は大きかった。

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 ただ、ナインの意識を変えるターニングポイントとなったのが「1球の重み」を思い知ったこの敗戦だったとも言える。「2年分の悔しさを自分たちが晴らそう」という主将小森一誠(こもりいっせい)の呼び掛けに全員が応じ、作新の誇りを取り戻すべく一心不乱に白球を追い、バットを振った。

 中でも率先して範を示したのが小川哲だ。「エースの自覚を態度で示したい」と語り、全体練習後もグラウンドに残り、黙々と走り込みを続けた。その結果、下半身が強化されて体の軸が安定。肘への負荷は減り、ボールの切れが増して制球力も高まった。

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 心技体。成果は顕著に表れた。結果を見れば、飛躍的と言ってもいい。国学院栃木との秋の県大会準決勝、白鴎大足利との決勝といずれも、複数失点しながら粘り、終盤の逆転劇につなげた。続く関東大会、明治神宮大会決勝まで計9試合に登板し、防御率は1・07。ピンチの場面でも動揺することなく、伸びのある直球で封じ込めた。

 「しっかりと腕を振り、コースを間違えなければ打たれることはない」。夏までマウンドで見せていた「ひ弱さ」は消え、風格すら漂わせた。

 「今まではどこか不安そうだったが、登板を重ねる度に自信が備わっていった」。小針崇宏(こばりたかひろ)監督もエースの成長を認める。入学前から大器として期待され、1年春に公式戦デビューを飾った本格派右腕が、最後の春を前に覚醒した。