中古車販売大手ビッグモーターの広島市内の店舗付近にある街路樹が市の許可を得て伐採されていたのを巡り、佐伯区の無職男性(73)から「一企業の意向で公共の財産である街路樹を切らせていいのか」と疑問視する声が編集局に寄せられた。伐採は妥当だったのだろうか。経緯をたどり、専門家にも聞いてみた。
南区楠那町のビッグモーターの店舗。店に面した広島県道の植樹帯には、約150メートルにわたってプラタナスの切り株が12本ある。街路樹が葉を茂らせる前後の区間と比べ、やけに空が広い。同社は取材に対して「個別の店舗の状況は回答を控える」とするため、市の担当課に経緯を尋ねた。
南区維持管理課によると、同社は2021年11月に店舗をオープンする際、車の出入り口を設けるため、プラタナスの伐採を含む「道路加工」を市へ申請した。出入り口付近の2本と、見通しを良くする目的で前後の10本を伐採し、さらに約70平方メートルのツツジを剪定(せんてい)する内容だった。いずれも市は認め、開店に先立つ同年5月までに会社側の費用負担で伐採、剪定されたという。
許可した理由について、市は「以前は大学のグラウンドで車の出入りが少なかったが、開店後は増える。街路樹で視界が悪いと事故が起きる懸念があった」と説明する。「大規模スーパーの出店でも同様に許可していただろう」とも言う。
これに対し、店舗前を車でよく通るという南区の男性(69)は「歩行者の日よけにも役立っていたはず。一企業のために、市が広範囲の伐採を許可したことにがくぜんとする」と強調した。
「街路樹が都市をつくる」などの著書がある千葉大の藤井英二郎名誉教授(環境植栽学)は「安易に伐採を許可すべきでない」と主張する。街路樹には、都市の気温が周辺よりも高くなるヒートアイランド現象や騒音の緩和など、多様な効果があるためだ。車の運転時の視界についても、街路樹を適切に管理していれば大きな支障にならないと指摘する。
取材を進めるうちに、同社の福井県の店舗が無許可で街路樹を伐採した事案が報じられた。国土交通省福井河川国道事務所は「店舗に確認したところ、展示車を外から見えやすくするため無断で伐採したと認めた」とする。
広島市緑政課によると、市内には高木の街路樹が約3万7千本ある。近年の本数は横ばいで、維持管理費は年約10億円。それだけのコストをかける値打ちがあるから育てているはずで、簡単に切っていいものではない。仮に伐採を認めるとしても最小限にとどめるべきだろう。一連の騒動を、街路樹の価値を見つめ直す機会にしたい。
(中国新聞)