「IT革命」という言葉が流行語大賞に輝いたのは2000年。どんな変化が訪れるのか予測もつかないながらも、魔法のような技術にわくわくしていたことを思い出す。今や魔法は手のひらサイズの機器となって、ポケットに持ち歩くことが当たり前になった。

 マイナンバーカードを巡るトラブルを見ていると、国民とITとの距離が近くて遠いものだったのかもしれないと感じさせられた。国が「デジタルの活用により多様な幸せが実現できる社会」を理念に掲げてデジタル庁を発足させたのは21年、「革命」から20年もたってからだ。かじ取り役不在だったツケが表面化したかのような混乱は、ITを活用したより良い生活をどう実現していくか、改めて考える機会になったと思う。

 世界は今、DX(デジタル化)の時代へ突入している。導入が進むAIの能力には目を見張るばかりだ。仕事を奪われる不安を抱く人もいるだろう。だがAIには理想の社会や制度を想像することはできない。魔法をどう利用するのか考える、大きな仕事が人間には残されている。