私道を通る車を確認する世良会長。奥に見える建物が市立北部医療センター安佐市民病院

私道を通る車を確認する世良会長。奥に見える建物が市立北部医療センター安佐市民病院

 団地内の私道を広島市の市道にしてほしい-。安佐北区亀山南の町内会から切実な声が中国新聞編集局に届いた。近年、近くにJRの駅や病院が開業した影響で車両の交通量が増加。だが市道認定の要件である規格に自前で改良しなければならず、多額の費用がかかるという。規制の緩い時代に造られるなどした私道については同様の悩みが同市に2022年度だけで70件超寄せられているが、「市道への道」は険しいままだ。

 長さ約500メートルの町内会所有道を次々と車が走り抜けていく。「もともと増加傾向だった交通量が病院ができて倍になった。町内会費で補修するのも大変」。瑞眺苑(ずいちょうえん)町内会の世良正治会長(79)はため息をつく。市道になれば、補修や維持管理は市が担うことになる。

 亀山南では2017年3月にJRあき亀山駅、22年5月に市立北部医療センター安佐市民病院が開業。周辺道路の整備も進み、近隣団地などから私道を通って病院や市中心部へ往来する車が増えたという。

 改修と寄付が唯一の道

 公共性の増した私道は市道に変えられないのか。安佐北区維持管理課に尋ねると、所有者が「道幅4メートル以上、勾配12%以下」などの認定規格に沿って改修し、市に寄付する方法しかないという。瑞眺苑の私道は道幅3メートル程度の箇所が多く勾配も急だ。点検した同課の石井修課長は「規格に合わせるには大規模工事が必要。億単位の費用がかかる可能性もある」とみる。

 約220世帯が住む同町内会の会費は月500円。そこから毎年20万~30万円の維持補修費をひねり出す。世良会長は「年金生活の人も多い。膨大な改修費を出せるわけがない。改修も含めて市に対応してほしい」と望む。

 1970年以前の「ミニ開発」に多く

 規格を満たさない私道は、行政の開発許可制度が創設された1970年より前に造成が始まった団地や、面積千平方メートル未満の「ミニ開発」で多くみられる。市道路管理課によると、22年度に市道への移管について寄せられた相談は76件。うち74件は面積5ヘクタール未満の小規模団地からだった。

 瑞眺苑を構成する3団地も70年前後にそれぞれ違う開発業者が造成。町内会は90年代後半から、市道化に必要な地権者同意を得る作業を続けてきた。「移転した開発業者に会いに福岡へ行ったり、地権者でホームレスになった人を説得したりと苦労した。数十年来の願いをかなえてほしい」。元町内会長の山口定義さん(86)は訴える。

 団地に詳しい広島大大学院の由井義通教授(都市地理学)は「現状では防災や緊急車両の進入などの面で問題がある」と指摘。「公共の福祉の観点から行政が対応し、住民側も土地の提供などで協力していく形が望ましい」と柔軟な打開策が出ることに期待している。(中国新聞)

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