心地よい音色が出迎えてくれた。ロシアのハープ音楽だという。店内はフランス製のアンティークテーブルがさりげなく置かれ、花瓶に生けた枝ものから、ふと視線を落とすとドクダミの白い花。壁際は村上春樹(むらかみはるき)さんらの本が並ぶ。
ドアで隔てられた温泉施設と趣を異にした、しゃれた空間が広がる。「意外に良かった、おいしかったと言ってくれるのもうれしい」。「カフェ ヴェリテ」店長の保坂拓実(ほさかたくみ)さん(56)は白い歯をのぞかせる。
保坂さんは東京出身。喫茶店のアルバイトを機に18歳で飲食を生業と定め、35歳で独立した。「本を持って2時間過ごせる、自分が行きたい店」づくりを心がける。料理はその時、その季節で考える。東京・麹町で9年間続けたカフェを閉じる際、常連客が「(メニューは)数百種類あった」と言って惜しんだという。
縁あって昨年4月に開店したヴェリテでもスタンスは変わらない。取材時の「日替わりカレーセット」はインド・ケララ風で、ココナツミルクとエビの甘みが豊かに混じり合った。手作りパウンドケーキを口に運び、深みのあるスペシャルティコーヒーを味わう。確かに2時間いたくなる。
▼メモ 日替わりカレーセットは1200円▽矢板市館ノ川695の28、「矢板温泉まことの湯」内▽営業時間 午前10時~午後7時▽定休日 水曜、第2、4木曜。臨時休あり▽(問)まことの湯0287・43・8800。