「ツバメの巣とひなを、カラスから守る方法を教えて」という声が福井新聞の調査報道「ふくい特報班」(通称・ふく特)に届いた。ツバメは今が子育てシーズン。昔から巣を作ると「幸せを招く」と言われてきた渡り鳥だが、年々その数を減らしている。天敵からひなを守る方法を専門家に教えてもらった。
「かわいそうでたまらない」。投稿してくれた福井市の男性(60)は今年、自宅のツバメの巣がカラスに落とされ、ひなも襲われたという。
巣を襲うカラス
県内でツバメの営巣調査をしている福井市自然史博物館の出口翔大学芸員によると、ツバメは3月ごろに東南アジアから渡って来て、つがいになり巣作りを始める。早ければ4月下旬から抱卵し、7月頃までが繁殖期。その時、巣を襲う一番の天敵がカラスだ。
カラスを防ぐには、巣の周りにひもや園芸用ネットを張ることが知られている。カラスは羽に触って通過できないが、ツバメなら通り抜けられる“ゲート”を設ける仕掛けだ。
「鳥は羽に異物が触れることを嫌う。カラスは翼を広げると100センチ近いがツバメは30センチ程度」。この体格差を利用する。「ツバメは飛行が上手で、翼を閉じてすり抜けることができるので、ひもの間隔やネットの網目が10~20センチで大丈夫」という。
ただネットなどを張る時期や巣との距離には注意が必要だ。抱卵する前に設置すると、巣を放棄してしまうことがある。また巣に近過ぎると飛行の妨げになるという。「1羽がじっと抱卵し始めたら驚かさないように作業して」と出口さんはアドバイスする。
空き家でも外さない
2週間ほど抱卵し、ひなが生まれて3週間ほど子育てした後に巣立つと、巣は“空き家”になるが、ネットなどを外すのは、ちょっと待って。「同じ巣で2回目の繁殖をする場合もあるのでそのままにして、外すのは8月過ぎに」という。さらに南へ帰った後、巣の中のわらや羽毛を取り除き衛生的にしておくと「次の年にまた古巣をリフォームして使う場合もある」。
投稿者に専門家のアドバイスを伝えると、「またツバメが巣作りしに来ました」との返信が届いた。今度は無事に巣立ってくれたら。
成鳥数、環境変化で激減 石川県内調査50年前の2割未満に
野鳥の専門家らがそろって指摘するのが「ツバメの減少」。カラスやヘビといった天敵の存在だけでなく、餌となる昆虫が減っていることなど環境の変化が影響しているという。専門家は「福井県は自然が多いから大丈夫、とは言っていられない」と警鐘を鳴らす。
日本野鳥の会福井県の松村俊幸事務局長は「県内で個体数調査は行われていないが、石川県のツバメ調査を参考にして推察できる」と教えてくれた。
調査は1972年から毎年、石川県内全公立小の6年生が行っている。成鳥確認が最も多かった74年は約3万6700羽だったが2022年は約6700羽。この50年間で徐々に減り、ピーク時の2割に満たない水準に落ち込んだ。
松村さんは「福井県も似たような状況だろう」とみる。「昔は夕方、飛んでいる昆虫を食べるアブラコウモリが空を舞っていたが、餌がいないから今はほとんど見ない。飛翔(ひしょう)性昆虫を捕食する代表格のツバメも同様に減っている」と指摘。昆虫生態系への影響が懸念されているネオニコチノイド系農薬などが原因ではないかとみている。
福井市自然史博物館の出口翔大学芸員も「市街地の拡大や、農地の生き物バランスの変化といった複合的な要因で、ツバメがすみにくい環境になっている」と話す。昨年から始めた市民参加型の営巣調査を通じ「ツバメと共生できる社会の大切さを訴えていきたい」と意気込んだ。(福井新聞)