きちんと話を聞くことができたのは一度きりだった。後悔している。
ファイル交換ソフト「Winny」の開発者、金子勇(かねこいさむ)さん。2004年、著作権法違反をほう助したとして逮捕・起訴され、11年に最高裁で無罪を勝ち取った。
当時はWinnyを使った違法コピーや情報漏えいが社会問題化していた。捜査は包丁が使われた殺人事件で包丁の製造者の責任を問うようなもの、と例えられた。
金子さんは栃木市(旧都賀町)出身。無罪確定後、同僚記者の取材に同行する機会があった。インタビューが始まると「気難しい天才」の先入観はすぐに消え、長距離走大会、校門近くの駄菓子屋の焼きそばの味…高校時代の話題も盛り上がった。帰り道で同僚と「悪意はなく、純粋にプログラムと向き合う人だね」とうなずき合った。約1年後、金子さんは病気のため急死した。
先月、映画「Winny」が公開され、初日に劇場へ足を運んだ。金子さんをほうふつとさせる東出昌大(ひがしでまさひろ)さんの好演がスクリーンでにじんだ。