宇都宮市出身の片嶋一貴(かたしまいっき)監督による最新作映画「天上の花」が県内でも公開されている。戦争に翻弄(ほんろう)されながら、萩原朔太郎(はぎわらさくたろう)の弟子で「自然詩人」といわれた三好達治(みよしたつじ)と、朔太郎の妹をモデルにした慶子(けいこ)との愛憎劇を描いた同名小説の映画化。下野新聞社のオンライン取材に応じた片嶋監督は「どこか不穏で閉塞(へいそく)的な戦時下で、一人一人の人生が狂っていく様を描きたかった。詩人たちにもいろいろな側面があったことがうかがえるのでは」と語る。
映画の舞台は昭和初期から戦時中。慶子にほれ込んだ達治だが、就職した出版社の倒産などで関係を認めてもらえず、それぞれ別の相手と結婚することになる。時は過ぎ、戦争を賛美する詩で“時の人”となった達治は慶子と再会。妻子と離れて一緒に暮らすことを決める。だが慶子の奔放な振る舞いに手を上げてしまい、2人の関係が変化していくというストーリー。
片嶋監督が戦時下を題材とした作品に挑戦したいと考えていた際、旧知の脚本家が温めていたのがこの「天上の花」だったという。一途に慶子を思うあまり暴力を振るう達治を熱演した東出昌大(ひがしでまさひろ)について、「撮影前から詩を熱心に勉強していた。議論を重ねながら、東出さんなりの達治を作り上げた」と振り返る。
体当たりで慶子を演じた入山法子(いりやまのりこ)については、「見ず知らずの土地で共感してくれる人がおらず、孤独を感じながらも自分の思いに忠実で周囲をはらはらさせる慶子を演じきってくれた」とたたえた。
キャストはこのほか、吹越満(ふきこしみつる)、漫画家浦沢直樹(うらさわなおき)らが名を連ねる。
「捷報(しょうほう)いたる」「北の国では」など達治の詩も物語のアクセントになっている。「詩も主人公の1人」と捉えた片嶋監督は、ニュアンスが伝わるよう、俳優による朗読だったり文字だけを流したりして、工夫を凝らしたという。「虚無感や不条理さを抱きながら、一人一人がいかに生きていくかを突きつける映画になっている」と語った。
県内での上映は、小山シネマロブレで2月2日まで、宇都宮ヒカリ座では同17日から。