カタールワールドカップ(W杯)でドイツ、スペインの強豪国を撃破し、決勝トーナメント進出を果たしたサッカー日本代表で2人の本県関係者がチームスタッフとして貴重な役割を果たした。森保一(もりやすはじめ)監督を支える存在として歴史的勝利へどのように導いたのか。対戦相手の分析を担当したテクニカルスタッフ、宇都宮大出の寺門大輔(てらかどだいすけ)氏(48)とコーチを務めた真岡市出身の上野優作(うえのゆうさく)氏(49)にチームや大会の裏側を聞いた。

-逆転勝ちしたドイツ、スペイン戦は後半にシステムを変えた。
「9月の親善試合2戦で守備から攻撃へ素早く切り替える戦術がうまくいき、いい準備ができていた。親善試合で選手を代えながら戦った成果が本大会で出た」
-試合中の戦術やシステムの変更は準備していたことか。
「3バックは長時間練習はしていない。リードした状態で5バックにして逃げ切る戦術は強化試合でやっていたが、ビハインドの場面での3バックは本番で初めて使った。ただ選手には事前に伝えていたので、迷いはなかった」
-試合中にベンチでしていたことは。
「セットプレーを中心に見ていたので、交代選手に役割を与えたり、試合の映像の確認したりしていた。端末でピッチの状況を確認する作業が多かった。ハーフタイムに選手へその映像を見せるべきかも判断した」
-今大会は練習でも新たな機器を用意した。
「セットプレーは事前に選手へ映像を見せても、練習の時になって内容を忘れてしまうことがあったが、今回はゴルフのカートの後部に端末を搭載したものを用意した。練習中にピッチ上で映像を確認して練習するようにした」
-自分たちの練習の分析も進化した。
「練習時の映像を編集する際に、画面上の選手を移動させたり、消したりすることができた。それらの映像を選手に見せることで、位置取りの修正を伝えていた。セットプレーの練習だとそういう細かい作業が重要になるし、選手の記憶に残るような映像をつくった」
-セットプレーを準備する際の考え方は。
「試合が短期間で続くことがあり、大会中はCK、FKとも同じパターンを繰り返して練習する。そこで精度を上げたり、バリエーションを増やしたりしていくことを考えていた。ショートCKは大会直前の強化試合の前に選手たちに提示し、それを繰り返した」
-その理由は。
「選手交代が5人できるのでキッカーなどもその時々で変わる。チーム全体の共通理解が必要だったので、途中から入った選手もできるように積み上げていった」
-例えばショートCKはどの程度のパターンを用意したか。
「選手が同じ立ち位置でも動き方を変え、キッカー含め、かかわる3人の動きを変化させた。セットした時に相手が見ても、何をするかすぐに分からないようにした。相手が対応してきた時は、選手自らが判断して臨機応変に変えられるよう準備した」
-実際の場面で通用した場面があった。
「クロアチア戦の1本目のCKの場面で、当初の狙いに対しゴール前の相手のマークがきつくてボールを出せなかったが、受け手の選手を変えて惜しい場面をつくってくれた。選手の判断で相手を脅かしたところは、チームの積み上げを感じうれしかった」
-選手との意思疎通も結果につながった。
「実際にドイツやスペインでプレーしている日本人選手がいて、W杯の戦いというものを分かっていた。スタッフと共に意思統一をできたのは大きかった」

-コスタリカ戦は厳しい結果だった。
「コスタリカが自陣ゴール前で守ることは分析済みで分かっていたし、1点を取るのが大変だというのも話していた。勝ち点1でも取りたかったが簡単ではなかった。ただ、あの試合で選手を入れ替えたことがスペイン戦の勝利につながった」
-W杯は他の大会と何が違ったか。
「試合は盛り上がり、サポーターが入る満員のスタジアムで大声援があった。他の試合を見ていても、大会の中にいるという幸せな思いを感じた」
-16強で大会を終えて思うことは。
「達成感はない。国内のサッカーを盛り上げることができたが悔しさがある」
-8強に足りなかったことをどう考えるか。
「PK戦の準備は明らかに足りなかった。ただ交代も考えると事前の準備は難しい。クロアチア戦はどっちが勝ってもおかしくない試合。目の前の相手にどう勝つかだけを考えた」
-W杯を最後にコーチを退任する。
「監督、スタッフらと選手選考や戦術の議論を重ねたのは指導者として楽しい時間であり、日本を代表する選手と戦えたことは貴重な経験だった」
-来季からJ3岐阜でトップチーム初の監督に就任。
「ずっと監督をやりたいと思っていた。遅かったがやっと第一歩を踏み出せる。自分がやりたいことを表現できるのは楽しみしかない。ボールを大事にしながらテンポが良く攻めて、ゴール前に何度も迫るようなサッカーをしたい」
-栃木SCでスタッフとして一緒だった松田浩(まつだひろし)氏が宮崎の監督に就任。対戦が控える。
「自分が指導者1年目の時に松田さんが監督で、指導のいろはを教えてもらった。対戦は本当に楽しみ」
-岐阜ではJ2昇格が求められる。
「昇格というより、岐阜の皆さんはJ2に復帰するという思いが強い。それを達成したい」
-選手やスタッフを含めこれから代表を目指す県民へメッセージを。
「強豪国相手でも戦えることを確信できたし、同じ目線で戦えることを発信したい。サッカーで本気で上を目指すにはそういうことを伝えたい。サッカーに新しく興味を持った人には楽しいと感じてほしい。ただ指導者の方々はライバルでもある」