虹のウェーブが天空に伸びていくようだ。高さ34メートル。のけ反らないと全体が視界に入らず、益子焼とは思えない。東京・日本橋茅場町のオフィスビル「渋沢シティプレイス」のエントランスに、陶壁「スカイブリッジ」は設置されている。

 陶壁とはその名の通り、陶で作った壁のアート。益子町在住の陶芸家藤原郁三(ふじわらいくぞう)さん(75)が1991年に制作した。約30センチ四方、厚さ約15センチの陶板760ピースを組み合わせた。藤原さんは「オーロラが大地から駆け上がるイメージ。企業が外に向かって発信、発展する思いを込めた」という。

 近寄ると、陶板の表面は波打ち、8色のグラデーションが自然に見える理由が分かる。重厚な力強さ、温かみのある素朴さなど益子焼の特徴も感じられた。

天に駆け上がるオーロラをイメージした陶壁「スカイブリッジ」
夜間はライトアップされ、建物の外からも楽しめる

 本県にゆかりが深い花王本社が入居する渋沢シティプレイスは、昨年の大河ドラマでおなじみの渋沢栄一(しぶさわえいいち)に関係する建物だ。藤原さんがこの陶壁を手掛けたのも、栄一の孫と縁があったからだった。「東京のど真ん中で取り組んだ思い出深い作品」と振り返る。

 益子焼といえば食器や花器の印象が強いが、藤原さんは自らの作品を「環境アート」と表現する。「人間を入れる大きな器を装飾する。空間を演出するアート」と説明。民芸の濱田庄司(はまだしょうじ)、創作陶芸の加守田章二(かもだしょうじ)に続く「第3の益子焼」とも例えた。

 藤原さんの作品は県内外500施設で700点にも上る。このうち都内は約60点。ノーベル賞受賞者を冠する東京大本郷キャンパスの小柴ホールをはじめ、区民センターや幼稚園、ホテルなど多彩な建物の壁を飾っている。

 渋沢シティプレイス内にはテナント関係者以外入れないが、陶壁は外側からガラス越しに眺められる。「見栄えがいいのでライトアップしている」と話すのは、建物を管理する渋沢ファシリティーズの岩井茂樹(いわいしげき)さん(45)。約4年前から平日の夜もエントランスを点灯し、夜景を楽しめるようにしたという。

 バブル経済崩壊後、陶壁の需要は激減した。大作自体が珍しい今、オーロラは夜のオフィス街に明るく浮かび上がり、確かな存在感を放っている。

◆益子焼 江戸末期、笠間で修業した大塚啓三郎(おおつかけいざぶろう)が窯を築いたことが始まりとされる。良質な陶土を産出し、大消費地・東京に近いことなどから、日用品の産地として発展した。現在の窯元は約250。若手からベテランまで窯を構え、作風は多種多様だ。国指定伝統工芸品。